「景気が良くなる」という期待は裏切られた

この中では有名なアナリストたちが、長く停滞する日本経済が復活できる可能性があると指摘しているのだ。専門家に言われたら、ピュアな庶民たちもワッとそちらへ流れて、全体主義的な世の中になるというのは、コロナ禍の自粛・マスク社会でも証明された日本の特徴だ。

それからネットやSNSでも、「東京2020で日本経済復活!」の大合唱だった。クロス・マーケティングが17年5月に20~69歳の男女1000人に東京五輪開催に伴って期待することを質問したところ、「景気回復・向上」(31%)がトップになっている。

つまり、日本人の中には「アスリートの夢のため」「世界平和を象徴するイベント」と奇麗事を言いながらも、「五輪をやったらドカンと世の中の景気も良くなるんじゃない?」と淡い期待を抱いていた人がかなりいたのだ。

それがうかがえる調査がある。NHK放送文化研究所の「人々にとって“東京五輪・パラ”とは何だったのか 『東京オリンピック・パラリンピックに関する世論調査』より」によれば、大会後に「盛り上がりは一時的なことに過ぎなかった」と回答した人はなんと65%にのぼった。「スポーツへの関心が高まった」という人は46%と半数にも満たず、「競技場でスポーツ観戦したくなった」は24%、「スポーツ中継が見たくなった」も21%にとどまっている。

東京新宿の都庁ビルに掲げられる2020年夏季オリンピックのロゴ
写真=iStock.com/winhorse
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「日本に利益をもたらす神話」は幻想に

このことからもわかるように、実は東京2020で純粋に「スポーツ」に熱狂していたのはマイノリティだったのだ。

では、大多数の日本人はなんで盛り上がっていたのかというと、金メダルがたくさん取れたことで、「日本人として誇らしい」というナショナリズムが刺激されたことや、このイベントで少しでも景気が良くなったりしないかという期待心からだ。

つまり、われわれ日本人がよその国の人々よりも過剰なまでに、「五輪」や「万博」というものに対して固執するのは、スポーツや科学技術、各国との交流スポーツが好きなわけではなく、シンプルに「日本人と日本社会に莫大な利益をもたらす」という神話を信じているからなのだ。

しかし、それが「幻想」だということは、実は1964年の東京五輪後から専門家が指摘している。五輪はインフラ建設によるバブルを引き起こすが、その後の経済成長にはほとんど影響はない。むしろ、バブルの反動で不況になることが多い。それは万博も同じだ。そのあたりは、ビジネス・ブレイクスルー大学学長の大前研一氏も「大阪の衰退は1970年の万博から始まった」という記事で指摘している。