なぜ自分の生徒には手を出さなかったのか

私がAに抱いた第一印象は「真面目そうな男性」でした。質問にも丁寧に答えますし、元教員らしい端正な文字で書かれた「リスクマネジメントプラン」は毎回、期日どおりに送ってくれます。また刑務所の中では、日々の筋トレや瞑想めいそうを欠かさないとも語っていました。

読者のなかには、Aが小学校教諭だったことから、彼自身が勤務している学校の児童たちに加害行為を繰り返していなかったのか疑問に思った人もいるでしょう。結論から述べると、彼は自分が受け持っている児童たちには一切、加害行為に及んでいませんでした。

当初それを聞いた私は「自校の児童に性加害を行えばすぐに犯罪行為が露呈してしまうため、ある種のリスクマネジメントなのかな?」と考えていました。しかし、その予想は大きく裏切られました。彼の答えはこうです。

「自分が担任をしている子どもには、そんなひどいことはできません。大切な児童ですから」

当然ながら、他校の生徒・児童だからといって「ひどいこと」、つまり性加害をしていい理由にはなりません。これは驚くべき認知の歪みです。

自分が担当している児童は大切だから、そんなおぞましいことはできない。Aには小学校低学年になる娘がいましたが、自分の娘に対しても同じ心持ちだったようです。職場では仕事熱心ないい先生、家庭ではやさしいお父さん……そんな彼の加害性の矛先は、ゲームアプリで知り合った女児に向けられていたのです。

毎年2000人の児童がSNSで性被害にあう

Aの場合はゲームアプリ内でのグルーミングでしたが、いまやTwitter(現・X)やTikTok、Instagramなど若年層が集まるSNSでは、オンライングルーミングをしようと手をこまねく性加害者が数えきれないほど存在しています。

警察庁のデータによれば、2019年には子どものSNSにおける被害が過去最多の2082人を記録しました。その後やや減少しているものの、毎年2000人近くの児童が被害にあっている事実に変わりはありません。

そもそもSNSでは、どんな投稿がきっかけで子どもと小児性犯罪者が知り合うことになったのか、年頃の子どもを持つ親御さんなら気になるところでしょう。同データによれば、子どもと加害者が知り合うきっかけとなった最初の投稿は「子どもの投稿」が約75%を占めています。さらにその内容は、性的なものではなく、プロフィールや趣味、友達募集、日常生活といった、日常のたわいもない投稿だったことも明らかになっています。

彼らはまるで投網とあみをかけるように、SNS上で不特定多数の子どもたちに狙いを定め、グルーミングできるターゲットを探しています。