従軍慰安婦を巡る控訴審で、韓国のソウル高等裁判所が日本政府に賠償を命じる判決を言い渡した。早稲田大学社会科学部の有馬哲夫教授は「日本軍が慰安婦に不法行為を行ったことが前提となっているのは河野談話があるからだ。河野談話を破棄しない限り、同様の判決が出ることは止められない」という――。
日本の「植民地支配」に反対する独立運動記念日の102周年にあたる2021年3月1日、ソウルの日本大使館近くで、第2次世界大戦中に日本兵の「性奴隷」として働いたとされる「慰安婦」を象徴する10代の少女の像のそばで横断幕を掲げる韓国のデモ隊。
写真=AFP/時事通信フォト
日本の「植民地支配」に反対する独立運動記念日の102周年にあたる2021年3月1日、ソウルの日本大使館近くで、第2次世界大戦中に日本兵の「性奴隷」として働いたとされる「慰安婦」を象徴する10代の少女の像のそばで横断幕を掲げる韓国のデモ隊。

「韓国国民に対して行われた不法行為」

最近の日韓友好ムードに水を差すニュースが11月23日に報じられた。

ソウルの高裁が、韓国の元慰安婦や遺族など16人が日本政府に損害賠償を求めていた裁判で、原告側の訴えを退けた1審の判決を覆し、日本政府に賠償を命じる逆転判決を言い渡したのである。

1審判決(2021年4月)は、主権免除に関する国際慣習法、最高裁判所の判例による外国人被告(日本国)に対する損害賠償提訴は許容できないというものだった。つまり、国家免除、すなわち、国家の行為や財産は、外国の裁判所で被告として裁かれることはない、という国際法上の原則を当てはめ、韓国の裁判所で、日本の行為に対し賠償請求することはできないということだ。

ところが、今回の逆転判決は、国際慣習法上、国家(主権)免除の原則は絶対的免除が適用された過去とは異なり、最近は行為によって例外を認める制限的免除に変わってきているという立場をとった。

裁判官は、その例として、国連・欧州国家免除協約やアメリカ・イギリス・日本の国内法、ブラジル最高裁判所・ウクライナ最高裁判決などの判例を示した。そのうえで、こう結論付けている。

「日本の行為は韓国領土で韓国国民に対して行われた不法行為であり、日本の国家免除を認めないことが妥当」

日本政府への賠償命令が不当である3つの理由

この判決は、日韓両国政府にとってだけでなく、原告団にとっても驚くべき判決だった。だが、以下に挙げる3つの理由から不当であるといえる。その理由を、歴史的経緯をたどりつつ述べていきたい。

① 日韓間のあらゆる賠償にかかわる問題は、1965年の日韓請求権協定で解決済み

② すでに日本政府は韓国側に経済協力や借款、「償い金」などを支払い、誠意を示している

③ 慰安婦に対する日本軍の不法行為があったとは言えない

まず、基本中の基本である日韓請求権協定を確認しよう。1965年6月22日に締結されたこの協定の第2条の1は次のようになっている。

両締約国は、両締約国及びその国民(法人を含む。)の財産、権利及び利益並びに両締約国及びその国民の間の請求権に関する問題が、千九百五十一年九月八日にサン・フランシスコ市で署名された日本国との平和条約第四条(a)に規定されたものを含めて、完全かつ最終的に解決されたこととなることを確認する。

つまり、日韓の間のあらゆる賠償にかかわる問題は、完全かつ最終的に解決されたということである。