論破してくる人にうまく反論する方法はあるのか。弁護士の紀藤正樹さんは「強く言われて流されそうになったときは、『この結論の大前提は何だろう?』と考える癖をつけてほしい。三段論法の仕組みをしっかり理解すれば、相手の理屈のカラクリを見破り、簡単にだまされなくなる」という――。

※本稿は、紀藤正樹『議論の極意 どんな相手にも言い負かされない30の鉄則』(SB新書)の一部を再編集したものです。

不安な女性
写真=iStock.com/mapo
※写真はイメージです

結論に納得できない時の2つの反論方法

あらためて三段論法の仕組みを見てみましょう。

大前提に小前提を入れると結論が出る──これは純粋な「理屈」です。理屈の背景に価値観があったとしても、理屈そのものは価値中立的です。つまり正誤の判断は、理屈のみを根拠として下すことはできません。次の例で考えてみましょう。

【大前提】子育ては両親の義務である
【小前提】子どもが生まれた
【結論】両親が共同で子育てをする

ご覧のとおり理屈そのものは破綻なく完結しており、理屈だけを見れば「正しい」ということになります。

しかし、この結論に納得できない人もいるでしょう。理屈が完結しているものには反論の余地がないかといえば、そんなことはありません。理屈は通っているけど賛成できない、そんな意見にどのように反論できるか考えてみましょう。

結論に納得できない場合、考えられる議論(反論)の仕方には、おもに2つの方向性があります。

反論法①「例外的事情」を取り込む

まず1つめは、「例外的事情」を取り込むこと。理屈はたしかに通っているし、大前提も常識的である。けれども「そうは言っても現実的に理屈どおりにできない」という事情もあるでしょう。

たとえば、「共働きしないと生活費をまかなえないため、子育てに時間的制約が生じる」という例外的事情は、「子育ては両親の義務である」という大前提や「両親が共同で子育てをする」という結論に対して、次の傍線部のような「程度」問題で応じる材料となります。

「子育ては両親の義務である」という前提条件をいじらずに、「可能なかぎりその義務を果たす」というように、「果たせない部分はどうするか」という現実的に実践可能な話にさじ加減を加味することで、別の納得できる結論を導くことができます。

たとえば、「子育ては両親の義務であり、子どもが生まれたら両親が共同で子育てをする。ただし両親が子育ての100%を担うのではなく、祖父母や保育園の手も借りてもよいのではないか」といった反論が可能になるわけです。

【大前提】子育ては両親の義務である
【小前提】子どもが生まれた
【結論A】両親が共同で子育てをする

結論Aに納得できない。

「例外的事情」を盛り込む。子育ては両親の義務だが、共働きしなければ生活費を賄えない夫婦の場合、子育てに時間的制約が生じる。

【結論B】両親が子育ての100%を担うのではなく、祖父母や保育園の手も借りながら子育てをすればよい