必要なのは法の支配を守る「不屈の精神」

そうであればイスラエルも法=ルールに服さなければなりません。今度はハマスに対するイスラエルの自衛について法の支配が持ち出されるのです。

ゆえに、イスラエルによるガザ地区の大規模空爆や大規模地上侵攻は、多くの一般市民が犠牲となるので人道法に反するし、均衡性の原則にも反します。明らかに自衛の範囲を逸脱しています。

また、イスラエルは空爆や地上侵攻を予告し、「24時間以内の退避」をガザ市民に呼びかけましたが、こうした住民移動の強制も国際法に違反しています。イスラエル側の論理では「警告したのに逃げないのが悪い」と言うのでしょうが、これは「退避」という名の「強制移住」です。ガザ地区はイスラエルの占領地ですが、占領地において住民を強制移住させることは絶対に認められません。それは侵略です。これが是とされるならば、ヨルダン川西岸地区におけるイスラエルの入植活動も是とされてしまうし、そればかりでなく避難警告さえすれば、どんな武力攻撃をしてもいいことを認めてしまうことになる。そうなれば一方的にウクライナに侵攻したロシアに対しても、あるいは今後台湾侵攻が懸念されている中国に対しても、「警告後」の武力攻撃にお墨付きを与えてしまうことになってしまうのです。

僕らは今、第2次世界大戦後、国際社会が築き上げてきた「法による秩序」の崩壊の危機に直面しています。「力の強い者(国)」が一方的に現状を描き直す行為は絶対に許されないというメッセージを、ロシアや中国に強く訴えていく必要があります。

だから、少なくとも日本の政治家はイスラエルによる大規模空爆に理解を示してはいけません。それは、ルールなんか時と場合によっては破っていいんだという宣言であり、法の支配を根底から覆しかねない危険なメッセージになるからです。

イスラエルにとっては大変困難であり苦しくとも、あくまでもハマスという武装組織を壊滅させる局所的攻撃までが自衛の範囲です。さらには自らが行っている入植活動も即時に止めなければなりません。

今回の危機が表面化してから、アメリカやヨーロッパでは、イスラエル支持者とパレスチナ支持者のデモが頻繁に起こっています。街中で激しい舌戦が繰り広げられる様子を、テレビや新聞は「世界は分断に向かっている」とはやし立てますが、この光景こそ民主主義のあるべき姿だと僕は感じます。互いに主義主張の応酬をしても、銃弾やロケット弾が飛び交うことはない。どんなに見解が激しくぶつかり合おうとも、最後は選挙で決する。これこそが2度の世界大戦を経て僕らが手にした法の支配による世界秩序、民主国家の姿じゃないですか。

ダウニング街近くの路上で祈る親パレスチナのデモ隊の縦長ショット
写真=iStock.com/Wirestock
※写真はイメージです

法の支配とは、本当のところはフィクションにすぎません。皆が信じるから維持されているようなものです。今の日本や先進国のように、国民が法を順守する共通認識を持って初めて機能する制度なのです。法を守ることが安定した秩序ある社会を維持するために必要不可欠なことだと理解し、どんな事情があろうとも、どんな相手であろうとも法に則ることを受け入れているからこそ実現します。だからこそ一度ほころびを許してしまえば、なし崩し的に崩壊しかねない脆さもはらんでいるのです。

法の支配を維持するためには、各メンバーが絶対にそれを守り維持するという決意とエネルギーが必要なのです。

西欧諸国も日本も長い歴史を踏まえて法の支配を築き上げてきました。中東やアフリカに法の支配が行きわたるにはあと100年かかるかもしれませんが、後戻りさせるわけにはいきません。それにはまず、法の支配が浸透している側にいる僕らが、その意識を絶対に緩めないという不屈の精神こそが必要不可欠なのだと思います。

(構成=三浦愛美 撮影=的野弘路)
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