これまでにないプロセスでビールを売る

――イノベーション部発の第2弾商品は、主力商品とも言える『サントリー生ビール』でした。イノベーション部らしさはどこにあるのでしょう。

まず、市場調査のやり方です。大阪の町工場へお邪魔し、「ビールは何を飲んでいるか」「それはなぜか」と聞いて回りました。他方、早稲田大学のマーケティングのゼミの学生と1年かけて、「なぜビールを飲まないか」を徹底的にディスカッション。また、店頭のビールが置かれた棚の前で人間の視線はどのように動くかを、脳科学プログラムを用いて検証したり、セオリーからあえて逸脱した缶のデザインを考案したり、これまでと異なるプロセスを積み上げてつくりあげたのが『サントリー生ビール』でした。

大阪の町工場や大学のゼミなどでの調査からは、やはりおいしいだけでなく、すっきりしたものも飲みたいというニーズがハッキリしました。ただ軽いだけでなく、おいしくてすっきりしたビールです。試作を重ねるうちに、イノベーション部がコーングリッツ(トウモロコシを挽いた穀粒)を使いたいと言ってきた。サントリーのビールは天然水仕込みで原料は麦芽100%、味わいはしっかりしたものという、いわば不文律がある。それを崩すのだから、正直に言うと、どうしようかなと迷いました。

でも、これこそ「やってみなはれ」であり「あかん」と言う理由はない。飲み始めにはしっかりした味を感じさせ、スッと引いて行きながら最後までおいしく飲めることを新製品のコンセプトにしました。当初は社内の醸造家も反対するほど社内では大きな決断でした。

――従来の新商品開発部門との摩擦はないのでしょうか。

もちろん、せめぎ合いはあります。従来の新商品開発部門(ブランド部)も何パターンか開発はしていました。しかし、プランニングを聞いてイノベーション部の案を選びました。もちろん、彼らは悔しいでしょう。でも、いがみ合うことはありません。頑張れ、頑張れと応援しています。ブランド部にも、仕事は山ほどあります。彼らの案は、次に控えています。

――第2弾でも、ビールを飲まない層にアプローチできた。

『サントリー生ビール』は新発売時のお客様の半分が、日ごろほとんどビールを飲まない層でした。これまでビールを飲んでいた人たちの上に、飲まなかった人たちがオンする形で想定以上の結果でした。

販売数量についても、2023年4月から12月までの計画が400万ケース。年間に換算すると500万ケース越えということになります。私としては早期に有力ブランドの目安とされる年間1000万ケースを販売達成したい。実は年間1000万ケース規模のブランドは、日本に数えるほどしかありません。そのためにも、初年度の販売目標達成には、大きな意味があるのです。