まず「先生がアテにならない」ことを知らしめる

研究室に新しい学生が分属されたときに、私がまずやらなければならないことは、「先生がアテにならない」ことを知らしめることである。

私たちが研究するのは身近な雑草だが、そんな雑草であっても、じつはわかっていないことが多い。

学生の観察が、大発見につながることも珍しくないのだ。

「先生なら、こんなこと知っているはずだ」
「先生なら、言わなくてもわかっているはずだ」

と学生が先生を過信すると、学生自身が大切なことを見過ごしてしまう。

学生たちが、ちょっとした発見やちょっとした気づきを私に伝えてくれるようにするためには、先生がいかに物を知らなくて、いかにアテにならないかを教えなければならないのだ。

もっとも、それはけっして難しいことではない。

物わかりの良い学生たちは、すぐにライス先生が、何も知らなくて、まったくアテにならないことを悟って、先生に頼ることを見切ってしまうのである。

それで、良いのだ。

“指示待ち型学生”は答えを見抜くと勇者に変わる

指示待ち型の学生は、上半身が筋肉ムキムキの勇者である。

その勇者たちが椅子から立ち上がり、自分の足で歩き始めると本当にすごい。

私のようなただムダに忙しそうにしているだけのモブキャラは、とてもかなわない勇者となる。

実験レポートやプレゼン資料を持ってきたとき、私はあまりの完成度の低さにブツブツ言いながら、こう指示する。

「何が書いてあるか、全然わからないよ。書き直してきて!」

ところが、もともと指示待ちの能力を持つ彼らは私の中に答えがあるのを見抜くと早い。

「先生が求めているのは、結局こういうことなのね」という解答がわかると、彼らはまるで、カチャカチャと簡単にパズルを解くようにレポートやプレゼン資料を訂正する。そして、次の日には、私が見て非の打ち所がないようなものを完成させて提出してくるのである。

一晩のうちに完成版ができてくるから、私は何が起こったかわからない。

「えっ! どうして一晩で完成するの? まさかお母さんに手伝ってもらったの?」
「違いますよ!」
「それとも12時過ぎて泣いてたら魔法使いが現われたの? もしかしてグリム童話みたいに寝ているうちに妖精がやってくれたってやつ?」

私はしつこく聞くが、学生たちは知らん顔である。

どうしたら、そんなことが可能なのだろう? 本当に教えて欲しい。

何しろ、私は大学から提出を求められている資料が、いったい何を指示されているのかまったく理解できず困り果てているのだ。