あまりにもタイミングが悪い「最高益」

電気料金の上昇で家計の負担が大きく増えているのを横目に、大手電力会社が軒並み好業績を上げている。電力大手10社の2023年9月中間決算(4~9月)は連結最終損益が合計で1兆6159億円と5928億円の赤字だった前年同期から大幅に改善。北海道、東北、中部、北陸、関西、中国、四国、九州の8社が上期の決算として過去最高を更新した。

2023年3月期の通年決算では8社が赤字に転落、家庭向けの電気料金を6月1日から軒並み値上げした。この効果だけでも収益が3300億円改善したとされる。実際にはLNG(液化天然ガス)価格が下落した効果などもあり、一気に最高の利益を上げる結果になった。

だが、このタイミングでの「最高益」はあまりにもタイミングが悪かった。価格上昇を抑制することを狙って政府が電力大手に補助金を出したタイミングと重なったからだ。2023年1月から始まった「電気・ガス価格激変緩和対策事業」である。

一般家庭が使う低圧の電気の場合、今年1月から8月までの間は、1キロワット時(kWh)あたり7円が給付される。例えば月に200kWh使用する家庭の場合、1400円電気代が安くなる。もっとも、消費する家庭や事業所の負担を抑えるための措置と言いながら、補助金が支給されるのは電力会社(ガスの場合はガス会社)。個人に直接支給されるわけではない。

午後の参院予算委員会に臨む岸田文雄首相
写真=時事通信フォト
午後の参院予算委員会に臨む岸田文雄首相=2023年10月31日、国会内

「電力会社は不当に儲けている」という批判

このため、国民の税金で賄われている激変緩和対策の費用が電力会社に流れているから、電力会社が軒並み最高益を更新したのではないか、という疑念が生じ、電力会社は不当に儲けているという批判が上がっているのだ。

9月14日には学生を中心とするプロジェクトのメンバーが東北電力を訪ねて、最高益が出るのにもかかわらず、なぜ電気料金の引き下げを検討しないのか、などを問う質問状を提出。東北放送などが報道した。質問状を提出した学生は「電気料金をねん出するために食事を削ったり家賃を払えなくなったりという相談がすごく増えてきている。あまりに今の貧困の広がりの深刻な状況について分かっていないのではないか」と述べ、学生らの生活実態と電力会社の意識のズレがあるのではないかと指摘していた。東北電力の6月からの値上げ率は約25%だった。

たまらず、対応策を検討し始める電力大手も出始めた。8年ぶりに最高益を更新した中部電力の林欣吾社長は決算記者会見で、「今後の料金のあり方や配当のあり方について具体的にどうするのかの検討を開始するよう指示した」と述べ、値下げも検討する姿勢を見せた。そんなに儲かっているのなら、税金から補助金をもらわなくても自助努力で何とかなるのではないか、という声が噴出するのを恐れているわけだ。