ガス代がどんどん上がる…コスト高に突き進むEU
仮に米国の天然ガス企業が、EUが求めるメタン削減の基準を満たさなかった場合、EUは米国以外の企業からガスの輸入を増やすことになるのだろう。
しかし、基準を満たすノルウェーの企業からガスの輸入を増やすとしても、増やせる量には限度がある。ガス需要の削減にも時間を要するため、EUのガス価格は上昇を余儀なくされる。
それに米国の天然ガス企業は、EUが求めるメタン削減のための費用を払うくらいなら、ガスの輸出先を日本や韓国といった東アジアの国々にスイッチするという選択をするかもしれない。そうなれば、EU各国のガスの価格が上昇する一方で、東アジア各国のガス価格は安定するという、実に皮肉な状況が生まれることになる。
EUが本当に、EUに天然ガスを輸出する域外企業に対して、2030年からメタン排出量の上限を課すようになるか、まだ分からない。確実にいえるのは、そうした規制を設定すれば、EU市場のガス価格に対する上昇圧力が強まるということである。
そして、価格が上昇した分のコストを負担するのは、最終的にはEUの消費者となる。
「脱メタン先進国・日本」はEUに左右されてはいけない
EUは、二酸化炭素に続いて、メタンの排出の削減にも野心を燃やしている。
確かに、温室効果ガス全体の削減を図るうえでは、メタンの排出は重要なのだろう。とはいえ、アプローチの仕方を間違えると、EUは米国のみならず、すでにメタンの削減に賛同している国々からも、距離を置かれてしまうことになるのではないだろうか。
一方で、日本への影響である。日本はそもそも、脱メタン化の先進国だ。それに資源エネルギー庁によると、日本のメタン排出量は、2019年時点で米国の約23分の1、EUの約15分の1と圧倒的に少ない。
EUのメタン削減計画に左右されず、これまで通り地道に削減していくことこそが、日本にとって望ましい選択ではないだろうか。
(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)