新しい治療薬として期待が高まるレカネマブだが、認知症治療薬の研究が終わったわけではない。「アメリカの製薬会社イーライリリーが開発した『ドナネマブ』はレカネマブと同じく、アミロイドβを取り除くメカニズムに作用する薬です」
同薬はレカネマブと同時期に治験が行われ、現在厚生労働省での承認申請中だ。24年中の承認を目指しているという。
「治験の結果によると、ドナネマブはアミロイドβを除去する効果がレカネマブより高く、認知症の進行速度を35%まで抑えました。また、固くかたまって集まったアミロイドβも除去できると期待されています」
ただ、その分副作用は強い。治験に参加した4分の1、つまりレカネマブの約2倍の割合で脳浮腫が確認された。
「同じくアメリカの製薬会社バイオジェンが開発した薬はタウタンパク質をターゲットにする核酸医薬です。開発番号『BIIB080』という薬ですが、外国で1年間にわたって行われた第1相臨床試験において、髄液中のタウを50%以上減らすことに成功と発表されました」
同薬は現在、第2相臨床試験の最中だ。
認知症の原因を排出する新たなシステムを発見
脳内のリンパの流れをコントロールすることで、タウタンパク質を効率的に排出できるかもしれない。そんな研究も進行中だ。
「脳には大小たくさんの血管が通っています。栄養分や酸素を運んだり、老廃物を排出したりするのは血流によるところが大きいのですが、血管の外にもグリアリンパ系という流れがあることがわかってきています。中枢神経に存在するグリア細胞と呼ばれる細胞の一つが、神経細胞から水を出し入れする仕組みを持っているのです。これをアクアポリン4と呼びます。タウタンパク質は脳内の神経細胞からアクアポリン4の作用で脳脊髄液に流れ出し、頸部(首)のリンパ節を通って頭蓋骨の外に排出されるのです」
アミロイドβは10年以上のスパンで脳内に蓄積する。これが引き金となってタウタンパク質が糸くずのように集まり、やがて病変が出現する。タウタンパク質を効率的に排出することができれば、神経細胞の損傷を防ぎ、アルツハイマー病に至る過程を断ち切ることができるかもしれない。
「ただ、これまで紹介したどの薬、方法を使っても、いったん認知症になってしまった脳を元通りにすることはできません。壊れてしまった神経細胞を元に戻すことはできないのです。いかに発症を遅らせるか。そのための研究はこれからも続きます」
寿命よりも発症を遅らせる。つまり、生きている間は認知症にならない未来がいつか来るのかもしれない。