働き口を求める女性の受け皿になった「ノレバン」

ジヨンは1982年生まれですから、IMF経済危機のときには15歳でした。そういう多感な時期に、母が起業家としてビジネスをして成果をだしている姿を見ていたわけです。当然、「女性でも努力と能力があれば、男性と同じように仕事をしていける」と感じたことでしょう。それだけに、就職後にあからさまな女性差別を受けて昇進が遅れていたジヨンには、大きな不満があったはずです。

また、ジヨンが出産して専業主婦になった後、もう一度社会に戻りたいと考えたときに、子どもを預けられるベビーシッターが見つからず断念せざるを得ませんでした。これも、女性の自己実現を阻む韓国社会への歯がゆさを感じさせたはずです。女性がこの映画を熱烈に支持した理由には、こうした「女性ならではの生きづらさ」に対する共感があったことは言うまでもありません。

男が職を失ったことで、働き口を求める女性は増えました。ただ、韓国経済が大きく落ち込む中、女性が職を得るのは簡単ではありませんでした。そこで彼女たちの受け皿になって大きな役割を果たしたのが「ノレバン」でした。

これは、「歌(ノレ)」と「部屋(バン)」が組み合わされた言葉で、要するにカラオケ部屋のような店です。従来のノレバンはカラオケがメインのサービスでした。ところが1997年以降は、働き口を求める女性たちを接待役にした店が増えました。

スナックやバーで働く女性には、若さが求められます。しかしノレバンのような店なら、ある程度年齢のいった女性でも接待役が務まるのです。それでノレバンは、かつて専業主婦だった女性の貴重な仕事場になったわけです。

ネオンが輝く韓国・ソウルの街
写真=iStock.com/fotoVoyager
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ノレバンは浮気の温床になっていった

ノレバンは、女性の意識を変える場にもなりました。それまでの女性は家庭にしばられ、外の世界を知らないまま生きていました。ところが、毎日着飾ってノレバンで働くうちに、世の中には夫以外にも素敵な男性がたくさんいると知るのです。

また、韓国の男性は見栄っ張りで外面がよく、彼女らの前ではお金持ちのふりをするので、世間知らずだった元専業主婦の女性は、この男性と一緒にいれば、今の夫と過ごすよりいい生活ができるのではないかと夢を見てしまうのです。その結果、IMF経済危機以降の韓国では、女性が浮気をする「浮気大国」になりました。

世界が広がった女性たちは、「今までの自分はなぜ、家庭のために犠牲になっていたのだろうか。夫や子どものために尽くすのではなく、自分のために生きる方がいいのではないか」と思いはじめ、すべてを捨てて男と一緒に逃げてしまったという話がたくさんありました。