なぜ命を削ってまでタバコを吸い続けるのか

経済学の観点から、最も不思議で興味深い行動は、「喫煙」です。市販されている商品で「通常の使い方をすると死亡リスクが高まります」とパッケージに書かれているのは、タバコだけです。もし、電気カミソリに「説明書通りの使い方をすると、大ケガをします」と書かれていたら、誰も買わないでしょう。

また、喫煙者の約6割が喫煙を「やめたい」、もしくは「本数を減らしたい」と考えています(※1)。本人はやめたいと思いながら、高い金を払い、命を削ってまで吸い続ける。この矛盾した行動の背景には、確かにニコチン依存症の特性によるところも大きいです。しかし、象の習性を知ることで、禁煙の成功率が高まると期待されます。

Q 禁煙を邪魔する習性は何でしょうか?

禁煙を邪魔する習性のうち、特に知っておきたいものとして、現在バイアス、楽観性バイアス、同調バイアスを紹介します。なお、以下のものはあくまでも「集団としてとらえた時の傾向」であり、実際にはそうではない人もいます。しかし、全体の傾向がどうなっているのかを把握することは大切です。

喫煙と肺のイメージ
写真=iStock.com/lucigerma
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喫煙者は現在バイアスと楽観性バイアスが強め

1)現在バイアス

象は目の前にある誘惑を我慢するのを面倒くさがり、目の前のことに反応する習性(現在バイアス)があり、喫煙者は現在バイアスが強い傾向が見られます(※2)。私たちはテレビや漫画の影響もあり、「タバコを吸う人は落ち着いている」というイメージを持つこともありますが、実際には多くの喫煙者は衝動的でせっかちなのです。

2)楽観性バイアス

喫煙者は物事を楽観視する習性があります。例えばY氏は自分の生活習慣病リスクを40%、Z氏は10%だと見積もったとします。ここで2人に「あなたたちの世代の生活習慣病リスクは平均30%」と伝え、その上で再度自身の生活習慣病リスクを見積もってもらったところ、Y氏はリスクを31%へと平均値に近づけましたが、Z氏は14%と少ししか上げませんでした(※3)

Z氏のように「自分は例外」と考える習性(楽観性バイアス)が働くと、禁煙する気が起きにくいものです。また、楽観性バイアスが強いと、「このくらい大丈夫だろう」とリスクに対しておおらかになり、ギャンブルのようなリスク愛好的行動に繋がりやすくなるケースも見られます。喫煙者がギャンブルを好むことは日本の研究でも報告されています(※4)