人は今、ちょっと風穴がほしい

酒、刺身、寿司の店「片口」周辺は物販店が多く、呑屋の時間帯になると、ちょっと「シャッター通り商店街」風に。

【手塚】話を聞いていて面白いのは、失敗事例の方なんだけどね。失敗の方に実があるんだもの。成功した話を聞いても「本当? それでうまくいくのなら、みんなうまくいってるはずじゃないの?」って思っちゃう。うまくいった話を見ていると「駄目だよ、そんなのやったって」と言われていた奴が頑張って「あっ、そういう可能性があったのか」と人があとから気づくという話でしょ。「だいたいこうやると成功する」って話は、みんながやるから、うまくいかないんだよね。

【三浦】それって、現代美術を見ているのと同じ感覚ですよ。現代美術をすぐ売れる商品にするのは難しいけれど、そこで何か、脳に刺激を与えるちょっと別の見方をできないかと考える。人はマスプロ商品を買いたがるように見えるけれど、手塚さんの宇都宮じゃないけれど、一方で人は息苦しくもなるし、ちょっと風穴が欲しい。スパイスを3粒ぐらいかけたものはないかと、今、人は求めるようになってきましたね。

ハモニカキッチン2Fにて。

【手塚】ぼくも、もうちょっと馬鹿な店をやりたいんだけど、やっぱりもう年なんだよね(笑)。お金の計算ができるようになっていて、地味なところに収まっているんです。これをぶち壊さないと駄目だなと思って。ということは、失敗するということなんですよ。今の目標はそれ(笑)。破産したりしないと面白くないという事態まで来てるなと思う。

【三浦】いや、ここで今、手塚さんの店が全部抜けたらすごいことになる。いよいよ、ハモニカ横丁をビルに建て替えるかという話になっちゃうね(笑)。

【手塚】ビルで建て替えるっていう開発というものは、冷静に考えたらほとんど夢がないんでね。実際に採算も合わないですよ。デベロッパーが持ってくる事案を見ていても、これじゃお金にならないんじゃないのって思うのばっかりですよ。

<次回予告>吉祥寺特集の雑誌を手に、街を順番に回る消費者たち。「消費されると、街は終わりなんだよ」と手塚さん。今の吉祥寺に、いや、日本中の街に必要なことは何だろうか。手塚さんと三浦さんが揃って「今、面白い」と絶賛する街はどこなのか。最終回《ハモニカ横丁にコム・デ・ギャルソンを》は11月16日掲載予定です。

(構成=プレジデントオンライン編集部 石井伸介)
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