イノベーションのアイデアを社外に求める企業がある一方で、社内で継続的に新しいアイデアが生まれ、新製品開発に結びついている企業もある。企業を「イノベーション体質」にするためには何が必要なのか。
ミシシッピ州オックスフォードのワールプール社の製造工場で、ライン労働者とエンジニアを含む社員グループが、テイルゲート・パーティ(車のテイルゲートを開け、そこに食べ物を並べて行う戸外パーティ)について語り合っていた。車の後部から飲み物を注ぐことができ、そこで食べ物を冷やしたり調理したりすることもできたら──しかも、その間ずっと好きな音楽を聴いていられたら──すばらしいだろうな、と彼らは空想した。
この空想話から生まれたのが、ワールプールが現在、開発中のゲイター・パクだ。この製品が完成したら、消費者はいくつかのオプション(グリル、冷却・加温器、飲料サーバー、電子レンジ、音響システム)から好みのものを選んで、テイルゲート機器をカスタマイズすることができる。ゲイター・パクは、このところ続々と生まれているワールプールの社内イノベーションの一つである。これらの製品のアイデアはすべて同じ源から発している。それは、イノベーションへのコミットメントを会社全体に浸透させ、それを組織のコンピタンシーにすることに成功した大規模な変革プログラムである。
長年にわたってイノベーションを生み続けている企業は比較的少ないため、多くの専門家が、イノベーションのアイデアを社外に求めるよう企業にアドバイスしてきた。その根底にある考えは、企業は自社のコア・コンピタンシーに焦点を絞るべきであり、将来の成長に必要な新しいアイデアは買収やパートナーシップによって得るべきだ、というものだ。このモデルは多くの企業で成功してきた。
しかし、外部への投資を控えて、代わりに社内のアイデアの力を解き放つ文化や仕組みを築くことに焦点をあてている企業もある。こうした企業では、会社を挙げてのイノベーションへの真剣な取り組みが有望な新製品を生み出している。それに劣らず重要なのは、新しいアイデアが登場すると、そのたびに企業の戦略が厳しく試され、企業が選択できる行動の種類が増えることだ。そしてそれは、組織のしなやかさ(弾力性)を築くことにもつながる。
「しなやかさは多様性にかかっている」と、ロンドン・ビジネススクール客員教授(戦略論・国際経営論)でウッドサイド研究所所長のゲイリー・ハメルと同研究所上級研究員のリーサ・バリカンガスは述べている(『The Quest for Resilience(しなやかさの追求/邦訳なし)』 Harvard Business Review 2003年9月号)。「組織が選択できる行動の種類が多ければ多いほど、組織は多様な混乱に対応することができる」。社内の能力を活用して、自社に必要な戦略の多様性を生み出すことによって、自社が外部の混乱の犠牲になる危険性を減らすことができるのだ。
社内からのイノベーションに対する持続的なコミットメントを築くには、いくつかの中核的要素が欠かせない。全社的に共有されているコミットメントのメンタル・モデル、手軽に使える社内のシード資金、実験を奨励し、失敗を受け入れる組織構造、イノベーションの価値を測定する能力などだ。