誰だって期待されればそれに応えようとするものだ。しかし、「部下不在」「達成不可能」な目標は、部下を困惑させるだけ。あなたの期待を部下のやる気につなげるにはどうすればよいのだろうか。
部下を信じて任せれば、
必ずベストを尽くしてくれる、と思うのは間違いだ
部下にベストを期待すれば部下はベストを返してくれる──スターリング研究所の創設者、J・スターリング・リビングストンが1969年に「ハーバード・ビジネス・レビュー」誌に発表した独創的な論文「ピグマリオン・マネジメント(マネジャーの期待と信頼が部下を育てる)」で取り上げたこの現象は、実に理にかなっているように思える。逆に、部下にあまり期待しなければ部下は貧弱なパフォーマンスしか返してくれない。INSEAD(欧州経営大学院)教授、ジャン=フランソワ・マンゾーニとジャン=ルイ・バルソーは、これを「失敗確実症候群(set-up-to-fail syndrome)」と名づけている。
だが、高い期待を設定して、部下にそれを告げるだけで仕事をしたと思っているマネジャー、つまり期待設定のプロセスに部下を参加させないマネジャーは、あまり期待しないマネジャーと同じく、貧弱な成果しか得られない。パフォーマンスについての期待を部下に首尾よく達成させるためには、上司は次の4点を実行する必要がある。
[1] 部下本人を参加させる
多くのマネジャーが、期待を設定する際に決定的に重要な第1歩──自分が提案した期待に部下が同意するか否かを見きわめること──をしていない、とインシード・グループのコンサルタント、リンダ・フィンクルは言う。人間は自分が参加して決めた目標に対しては、より熱心に取り組むし、その目標を達成できるという自信をより強く持つ。その結果、より高いパフォーマンスが生まれる。
人材派遣会社、コムフォースの副社長、ボブ・セネターは、次のような言葉で期待設定への社員の参加を奨励している。「われわれは一緒にこれを達成できると私は思っている。君はどう思うかね」。彼と部下のマネジャーたちは話し合いによって期待を設定し、そのマネジャーたちもまた、各自の部下と同様にして期待を設定する。上司と部下の各ペアは、それから進捗度を測定するための基準を設ける。
コムフォースのアプローチでは「部下は設定された期待をより意味のあるものに感じるし、自分が期待を達成できそうにないときは、それをより敏感に自覚できる」と、セネターは言う。とはいえ、「それぞれの社員が期待を見事に達成したとしても、会社全体としては収益などの目標を達成できないということがある。会社の成功を確実にするために、われわれはときとして期待の調整を要求しなければならない」。