[2] 期待は達成可能なものにする

期待設定のプロセスにどれほど積極的に参加しようと、自分に期待されていることを具体的に理解していなければ部下は十分なパフォーマンスを示さない。

期待をあまり細かく表現すると限られた反応しか得られないおそれがあるとして、さほど具体的でなくても明確に示すことは可能だと主張する企業幹部もいる。

だが、期待が明確なだけでは不十分だ。設定された目標は、部下本人が現実的で達成可能だと感じるものでなくてはならない。イギリスのランカスター大学マネジメント・スクールの組織心理学教授、ゲイリー・L・クーパーは次のように語る。「期待とパフォーマンスの相関関係はベル型の曲線を描く。高い期待はパフォーマンスの向上につながるが、期待が非現実的なほど高くなると、それは過大な負担やストレスを生み、パフォーマンスの低下を招く。それでも多くの幹部マネジャーが、ますます高い目標や業績を設定して、部下を絶えず駆り立てるべきだと思い込んでいる」。

「目標は難しいものであるべきだが、部下本人が不可能だと感じて拒絶するほど難しいものであってはならない」と、フィラデルフィアのラサール大学で人的資源管理を教えているジェイムズ・スミザーは言う。努力すれば目標を達成できると感じられること──スミザーが「自己効力感」と呼ぶもの──が大切なのだ。自己効力感が高ければ、人はより難しい目標を設定する。スミザーによれば、マネジャーは次のことを実行することで部下の自己効力感を高めることができる。

●大きな仕事を小さな要素に分解して、それを一度に一つずつ与えることで、「小さな勝利」を重ねさせる。
●順次、複雑で、困難な仕事を達成させていくよう仕事を組み立てる。
●同様の課題を克服した経験を持つ同僚に関心を向けさせる。
●高いスキルを持つ他の社員が望ましい行動──数量化できる仕事の遂行であれ、そうではない対人スキルの行使であれ──の見本を示すのを観察させる。
●批判に焦点をあてるのではなく、部下に対する信頼を表明する。もしくは、設定された期待を達成することに部下がすでに自信を持っているという前提でものを言う。