毎日、メールや企画書や会議に追いまくられて余裕のないマネジャーは、ときとして情報の流れを止めてそれに対応しようとする。だが、重要な情報を部下に伝え遅れたり、まったく伝えなかったりすると必ず痛い目に遭うだろう。
社員とコミュニケーションをとらないこと──もしくは社員が重要な情報にアクセスできる体制をつくらないこと──は、大きなツケをもたらすことがある。コミュニケーションの欠如は士気やパフォーマンスを低下させるだけでなく、最終的には利益にも影響を及ぼしかねないのである。
たとえば、ミシガン大学が5年間かけて行った調査によると、情報の共有度が高い企業のほうが、低い企業より投資収益率も売上高利益率も高かった。
情報のチャネルを開いて、コミュニケーションが適切な方向に流れるようにすることは、企業のパフォーマンスに決定的な影響を及ぼすことがある。また、情報を止めることは、社員はもちろん顧客にまで間違ったシグナルを送って大きな害を及ぼすことがある。
「最終決定」を待たずに初期段階から知らせる
多くのマネジャーが、問題に対する最終的な解決案がはっきりするまで何も伝えることはないと考えている。しかし、何も知らせないでいると、「上の連中はやっていることを自覚していない」「何もしていない」「部下を軽視している」といったメッセージを送ることになる。このようなマネジャーが理解していないのは、社員は最終的な決定に至る過程についての情報や、どのような案が検討されているかとか、どのような基準で決定がなされるのかといった情報を知らされれば、概して満足するということだ。
その実例を2つ挙げよう。エネルギー産業のある企業が、販売部門とマーケティング部門を活性化させるため、両部門とも部長は留任させてスタッフを入れ替えることにした。上級幹部は、すべての配置転換が確定するまで待ったりはせず、各レベルの人員配置が終わるたびに全社員にメールを送った。社員にとっての最も重要なメッセージは、誰がどのポジションに選ばれたかではなく、そうした選定が会社の新しい目標とどのような理由で、どのように合致するのか、ということだった。メールには、重要なポジションに選ばれた社員の以前のポジションの一覧だけでなく、彼らの優れた行動の実例も記載されていた。これによって、ラインのずっと下のほうの候補者に、どのような基準で決定がなされているかを理解させることができた。
もう1つは、自社より業績の劣る競合他社を買収した製薬企業の例だ。買収された企業の配送センターの多くが自社の配送センターと同じ場所にあったため、重複している配送センターは閉鎖されるという噂が流れた。動揺して真剣に職探しをする社員も現れ、生産性が低下した。会社が徹底的な査定を行ってどの配送センターを閉鎖すべきか決める方針であることが社員に伝えられると、噂は消え、生産性が向上し始めた。配送センターのスタッフが生き残りをかけて競争するようになったからだ。