現状維持は生物の本能に由来する
選択を先延ばしにしてはいけないと頭ではわかっていても、不安や恐怖などの否定的な感情に支配されて、なかなか踏み出せないことがあります。
これまでやっていたことをやめたり、新しい環境に挑戦したりすることに対する不安は誰にでもあります。実際にやってみると意外と大したことはなかったと思うものですが、選択しようとすると、言い知れぬ不安に襲われてしまうのです。
そもそも人間は現状維持が大好きで、変化したがらない生き物です。これは生物の本能に由来するものです。
いま自分が生きているということは、この場所に、とりあえず生存するための最低限の条件が備わっているということになります。別の場所に行けば、おいしい果実がたわわに実っているかもしれませんが、猛獣や毒蛇がいて死んでしまうかもしれません。であれば生存戦略上、現状維持が有利だと本能は判断します。私たちの意識には、変わりたくないという欲求が遺伝子レベルで刷り込まれているのです。
意識しない限り変わることはできない
ブラック企業から転職したいけれども踏み出せない人は、この現状維持バイアスに囚われていることがあります。「辞めたいけれども、次に行った会社の条件がもっと悪くなったらいやだし、新しい環境で一からやり直すくらいなら、我慢できないことはないから、もう少し様子を見よう」と考えるわけです。
現状に不満タラタラだとしても、変化の痛みにさらされたくないので、「このままでいいか」と決断を先送りにしてしまいがちです。まさにゆでガエルで、熱湯に入れるとびっくりして逃げ出しますが、水から徐々に水温を上げていくと逃げ出すタイミングを失ってしまうわけです。
転職などの大きな選択に限った話ではなく、日常生活の中でも、意識しない限り、なかなか変わることができません。
私は最近、自家用車を買い足しました。日産のスカイラインに加えてさらにアリアという電気自動車を買ったのですが、納車までの間、わざわざ追加しなくてもよかったんじゃないか、乗り慣れたスカイラインから替える必要があるのだろうかと迷っていました。ところが新車に乗り始めると、これが最高で、買うのを迷っていた気持ちももはや思い出せないほどです。やはり人間、現在のことはディスカウント(割引)して考えるものだなとつくづく感じました。