被害者救済の妨げになってしまっていないか

「性加害を認めろ」「社長やめろ」からはじまり、事実として認定し、藤島ジュリー景子社長が辞任すると今度は「社名を変えろ」「タレントを移籍させろ」「私財を投じろ」、社名を変えてエージェント制への移行を発表し、税金の納付を約束すれば、責めるところがなくなったのか、コンサル会社が作っていたNGリストを理由に難癖をつける……。

ジャニー喜多川氏の犯した罪だけではなく、理由はなんでもいいからジャニーズ事務所を叩けばいいと考えているかのような報道の連鎖。責めること自体が目的化しているようにも見えるその行為は、実質的に被害者救済の妨げになってしまうのではないだろうか。

10月2日、記者会見に出席した東山紀之氏(右)と井ノ原快彦氏
撮影=阿部岳人

ジャニーズ事務所が今月9日に発表した報道各社に十分な検証を要望する声明は、その妨げへのせめてもの抵抗にも感じた。

これまで、事務所に批判的な視点も含めてコメントをしてきたKAT-TUNの中丸雄一も、2回目の会見後には「この会見って第一の目標は、被害に遭われた方がこの後、どうなっていくのかを社会で見守っていきましょうということだと思う」

簡単に“正義”の側に立とうとする危うさ

「(再発防止)特別チームの提言以上のものを発表したと僕は思っているので、それがしっかりと報じられなかったのは残念」(日本テレビ系『シューイチ』10月8日放送)と語っていたのも、この流れへの危機感によるものだろう。

この流れの中では、少なくとも、当の被害者である元ジャニーズJr.の橋田康さんが、タレントや藤島ジュリー景子氏を慮って「実害的なものとは別として、全員が被害者の状態」(日本テレビ系『news every.』2023年9月7日放送)と語るような視点はどのメディアも持ち合わせていないようである。

もしくは、被害者側が加害者側を慮る、加害者側のジャニーズ事務所の中にも被害者としての要素があるという白と黒が混ざる複雑な事態を説明する力を持ち合わせていないのかもしれない。

本稿も、性加害を肯定していると曲解されかねないが、この複雑さを説明するには、こうして言葉を尽くさなければいけないのに対し、今はジャニーズ事務所を糾弾すれば簡単に“正義”の側に立つことができる。

国連人権理事会の「ビジネスと人権」作業部会や、再発防止特別チームからも、マスメディアにも責任の一端があると指摘されているが、この状況を鑑みると、ジャニーズ事務所を責めることで彼らを“唯一の悪”にして、自分たちはインスタントに正義の側につこうとしているようにすら見えるのである。