自己プロデュースでやってはいけないこと

自己プロデュースのコツをよく聞かれるんだけど、俺からひとつ言えるのは、あまり自分のやり方や考えに固執せず心を柔軟に保っておいたほうがいいということだ。自分に固執すぎると途中で引き返せなくなり、どんどん突っ走っていってしまう。

晩年の橋本選手がそうだった。自分の会社、事業を立ち上げて最初はよかったけど、途中からおかしくなった原因は本人にあるんだ。遊びすぎた。そこから女とかに走っちゃって、がまんの限界となった社員がクーデターを起こした。

それでも、本人は一国一城の主という気持ちが強かったから、どうしても城を乗っ取られたという思いがあり、一方で体はボロボロになっていった。

その状況の頃に俺は橋本選手に正直な思いを伝えた。

「経営者の橋本真也にこだわりすぎている。でも、今やらなきゃいけないことはプロレスラー橋本真也の顔を出すことだろう」

蝶野正洋『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)
蝶野正洋『「肩書がなくなった自分」をどう生きるか』(春陽堂書店)

本当は2005年5月、新日本プロレスの東京ドーム大会に、橋本選手を呼ぼうとしたんだ。でも彼はまだ経営に執着していた。本来は経営者としての彼の顔なんてファンは誰も見ていなくて、みんなプロレスラー橋本真也を待っていた。

だから、復帰戦に向けて会場でアピールするなり、ファンの期待に応えるアクションをしたほうがいいと思っていた。でも、実際は前年の12月に手術をした肩の回復が思わしくなかったらしくて、リングに上がることはなかった。そして、東京ドーム大会から2カ月後の2005年7月、帰らぬ人となってしまった。

なりたい自分に向かって突っ走るだけではなく、時には周りから見られている自分がどこにいるのかというのを確認しておかないと、ということだよね。

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