なぜアメリカが台湾に接近すると激怒するのか
アメリカ議会の下院議長が台湾の総統と会うと中国が激怒して台湾を包囲する形で軍事演習を実施する。2022年に民主党のペロシ下院議長が台湾を訪問したときも、2023年に台湾の蔡英文総統がアメリカに立ち寄り、共和党のマッカーシー下院議長と会ったときにも、中国は同じ対応を示しました。これは、どういうことでしょうか。
まずはアメリカと中国の関係です。第二次世界大戦後、国際連合が発足したときの「中国」とは中華民国つまり台湾でした。しかし、中華民国が統治できているのは台湾だけ。中国大陸には中華人民共和国が成立しているのですから、中華民国が中国を代表しているというのには無理がありました。
アメリカは戦後、台湾と国交を結んでいましたが、やはり人口の多い大陸が経済面でも魅力的です。そこで1972年、当時のニクソン大統領が中国を訪問し、国交正常化に向けて話し合いを続けることで合意します。これにもとづき、実際に正式な国交が結ばれたのは、カーター大統領の時代の1979年でした。
まだ台湾に「解放すべき人民」が残っている
これにより、アメリカは台湾と断交します。しかし、当時のアメリカ議会では「台湾を見捨てるべきではない」との声が強く、議会が、通称「台湾関係法」を成立させます。この法律は、「台湾人民の安全または社会、経済の制度に危害を与えるいかなる武力行使または他の強制的な方式にも対抗しうる合衆国の能力を維持」し、「大統領と議会は憲法の定める手続きに従い、(中略)とるべき適切な行動」をすることを定めています(「日中関係資料集」)。
要は「アメリカはいざというときは台湾を防衛するよ」という意味なのですが、表現は曖昧です。もし台湾が中国から軍事攻撃を受けたとき、アメリカは本当に台湾を守ってくれるのだろうか。これが台湾の人たちの懸念です。
そこでアメリカ議会を代表する形で下院議長が、民主党であっても共和党であっても、それぞれ蔡英文総統に会い、「アメリカは必ず台湾を守る」と約束したというわけです。ちなみにアメリカ議会の下院議長は、副大統領に次ぎ、大統領継承順位2位、実質ナンバー3の力を持っています。
これは中国にとって「台湾という国内問題にアメリカが口を挟む内政干渉だ」となります。中国の軍隊は「人民解放軍」という名称です。中国大陸の人民は「解放」したが、まだ「解放」すべき「人民」が台湾に存在しているというわけです。