なぜアイドルがドラマや映画で重用されるのか
テレビ業界の共犯者のなかでも、特に罪が重いのは、テレビの音楽番組のプロデューサーたちだろう。つまり、音楽番組に誰を出すかをジャニー氏と談合して決める権限をもった人たちだ。彼らがジャニー氏の意向を出演者の人選に反映させたことが、ジャニー氏の絶大な影響力と権力の源となった。
そして、この背景には、日本独特のスターシステムがある。アメリカならば、音楽グループが俳優としてドラマにでることはまずない。彼らが映画に俳優として出てくることはもっとない。イギリスもこれは同じで、アーティストは、曲作りと公演とレコーディングで忙殺される。テレビはテレビで、映画は映画で、若いころから演技を磨き、経験を積み、キャリアアップしてきた俳優がでている。音楽とテレビと映画は別々になっている。
ところが日本は、音楽グループが、人気が出て、CMにでて、大衆に認知されると、ドラマや映画に起用される。いったん大衆に認知されると、歌や踊りが多少下手でも、テレビに出してもらえる。実力はあるが名前の売れていないアーティストを出すより、すでに認知されている音楽グループを出す方が、確実に視聴率がとれるからだ。
彼らは、テレビの音楽番組に登場し、それによってレコードやCDが売れ、相乗効果でさらに認知度が高くなって、テレビドラマ、映画と起用されていく。これが定式化されていく。
アーティストを格付けするNHK紅白歌合戦
こうしてジャニー氏は、音楽番組だけでなく、ドラマやバラエティー番組のプロデューサーにとっても、そして彼らの上に君臨する番組編成者にとっても、欠くことのできない存在になっていく。テレビ局は、映画会社のように年に数本コンテンツを製作すればいいのではない。週に何十本ものコンテンツを制作しなければならない。ジャニーズ事務所のような大手音楽事務所の協力なしにそれはできない。
ジャニー氏がテレビ業界でこのような存在なので、ジャニー氏の引きがあれば、まったくの無名の青少年が、音楽グループのバックダンサーなどにしてもらい、ステージに立たせてもらい、やがてメジャーデューして、音楽番組、ドラマ、映画とスターダムを駆け上がっていく道が開ける。
では、この日本独自のスターシステムの中にNHKの紅白歌合戦はどのように位置づけられているのだろうか。音楽関係者にとって、この番組への出演は、アーティストが大衆の認知を得る絶好の機会であるとともに、彼らが格付けされ、地位を与えられる機会でもある。つまり、この年に一回の、多くの人びとが茶の間にそろって見る番組に、出たかどうかで、アーティストは残酷なまでに区別される。そして、その後は、すべての面において別格扱いされる。