5年夏以降の受験勉強はムリがある

「今から受験をさせようと思うのですが、間に合うでしょうか?」
「習い事と両立しながら受験をさせたいのですが……」

毎年、5年生の夏が過ぎた頃、私が代表を務める名門指導会にはこのような問い合わせが殺到する。中学受験のプロ家庭教師集団と謳っている以上、成果を出したいという気持ちはもちろんあるが、「正直、今のこの学力レベルでこの学校を受験するのは難しいだろう」というケースもある。そのくらい5年夏以降の1年半の受験勉強だけではムリがあるということだ。

電子ピアノを弾いている少女
写真=iStock.com/show999
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中学受験の価値は「学習のプロセス」にある

それでも挑戦したいというのなら、こちらも全力で指導を行うが、それはあくまでも「合格させる」ため。入試傾向を徹底的に分析し、入試に出ない問題は一切触れないといった割り切りが必要になる。中学受験の目標が「志望校に合格するため」だけであれば、この学校の入試問題はこのレベルの問題しか出ないから、とりあえず限られた時間内にここだけは教えておこうというやり方で、合格させることもできるだろう。

しかし、中学受験をさせる本当の良さは「合格」という結果ではなく、どのように勉強をしてきたかという「学習のプロセス」にあると私は考える。多くの情報の中から条件を整理したり、物事を比較したり、俯瞰したり、手を動かしながら考えたりといった中学受験の勉強を通じて身に付いた学習のやり方は、その後の大学受験や社会に出てからも生かされる力になるし、努力することの大切さ、自分を律することの難しさを知っているということは、人として大きく成長させる。

こうしたさまざま経験を10代の入口で得られることが本来の中学受験の良さであり、将来へとつながっていくのだと考える。だが、合格するだけの勉強では、それを得られないまま受験が終わってしまう。それが“ゆる受験”のマイナス点だと私は感じている。