医学部進学を目指して中学受験をすることにリスクはあるのか。プロ家庭教師集団・名門指導会の西村則康さんは「難関校を受験するために、低学年から勉強ばかりをさせるのは勧められない。中学受験の直前に伸び悩み、医学部を狙えるような学校にはとても行けないレベルにまで落ち込んでしまうケースが少なくないからだ」という――。

関西の難関校では以前から医学部進学が人気だった

私立中高一貫校のホームページを見ると、どの学校にも必ず直近3年の卒業生の大学進学実績が載せられている。東大をはじめとする国立大学、早慶などの私立難関大学、そしてGMARCHと続き、自分たちの学校がいかに多くの優秀な生徒を輩出してきたかをアピールするページだ。そのなかで、近年異変が起こっている。それは、医学部進学をあえて別枠にして見せていることだ。

もともと関西の難関校では、灘中を筆頭に医学部進学の人気は高かった。特にリーマンショック以降の長引く不況で、世の中の景気に左右されずに一生食べていける職業として、わが子を医者にさせたがる親が一定数いた。ところが、近年は関東の難関校でもその傾向が強く見られるようになっている。

やはりこれだけ格差が広がっている社会で、お金で人の幸福感が決まってしまうわけではないと思っていても、わが子の将来は安泰であってほしいという親の願いがあるのだろう。だが、ここ数年、医学部へ進学させたがる親たちを見てきて思うのは、それだけではないような気がしてならないのだ。

医者
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「お医者さんになりたい」という子は2割いるかいないか

中学受験のプロ家庭教師として、数多くの家庭を訪問して30年以上。子どもの特性や志望校に応じたきめ細かな個別指導をモットーにしているため、どうしても他の大手個別指導塾や家庭教師サービスよりも高額な授業料をいただくことになる。すると、おのずと医者や弁護士といった名だたる職業や、大手企業に勤める親のいる家庭に訪れるケースが増える。こうした家庭に多いのが、「わが子を医学部に進学させたい」というもの。

もともと代々医者の家庭では、わが子にも継いでほしいと、医学部進学が可能な私立中高一貫校に入れさせたいというニーズはあった。ところが最近は、「私は私大の医学部出身なのですが、わが子には何がなんでも国立大医学部に進学させたいんです」と、やたらと国立大医学部にこだわる人がいたり、自分は企業に勤めているけれど、「これからの時代は会社員だから安泰というわけではない。だから、わが子には手に職をつけさせたい」と自分が置かれている状況を痛感して、子どもを医者にさせたがる親が多い。誰もが「わが子のため」と口を揃えて言うが、話を聞けば聞くほど、その裏には自分の学歴コンプレックスや能力の優劣をわが子でリベンジしたいという思惑が隠れているように思えてならない。

もちろん中には、子ども自らが「僕は将来、お医者さんになりたい」と言い出して、「それならより良い教育を受けさせてあげたい」と中学受験を選択した家庭もあるだろう。だが、これは私の肌感覚になってしまうが、そういう子は医学部を目指す子のうち全体の2割いるかいないか。それ以外は親からのなんらかの押しつけがあって、そう言わせているように感じるのだ。