中学受験の勉強は一般的に小学校4年生から始まる。それよりも短い期間で受験に挑戦することはできないのか。プロ家庭教師集団名門指導会の西村則康さんは「近頃、“ゆる受験”という言葉が浸透しつつある。通常より短期間で無理なく受験勉強をするというものだ。だが、長年中学受験に携わってきた経験で言えば、小4から3年間かけて準備をしたほうがいい」という――。
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短い期間で無理なく受験ができる“ゆる受験”

近頃、“ゆる受験”という言葉が浸透しつつある。一般的に小4(小3の2月)からスタートする中学受験の勉強。最近では低学年から塾通いをさせる家庭も増え、首都圏の中学受験は過熱する一方だ。そんな行き過ぎた受験に疑問を感じつつも、「まわりの友達がみんな受験をするから、うちだけしないというわけにもいかなさそう……」「地元の公立中学もあまり評判が良くないし……」と中学受験をさせるかどうか迷っている家庭は少なくない。そんな家庭に刺さるのが、通常よりも短い期間で無理なく受験ができるイメージの“ゆる受験”だ。

「5年生から受験勉強を始めて、難関中学に合格!」
「好きなサッカーと両立しながら、中学受験にも挑戦」

世の中にはさまざまな受験情報が溢れている。なかでも合格体験記は、これから受験を始めようとする親たちの関心が高い。そんな中、ガチで中学受験の勉強をしなくても、第一志望校に合格したという子のサクセスストーリーは魅力的に映るのだろう。

しかし、長年プロ家庭教師として中学受験に携わってきた私の見解は、「中学受験の勉強は、やはり小4から3年間かけて準備をした方がいい――」だ。

それはなぜか――?

「中学受験をするか」決断を後回しにする言い訳になっている

「小学生のうちから塾通いなんてかわいそう」
「うちはまだ基礎学力が付いていないから、通塾はもう少し待ってみようと思う」

大手進学塾の入塾テストが始まる小学校3年の10月、なかなか中学受験をさせる決断ができず、とりあえず今は見送っておこうという家庭がある。そんな家庭にとって、中学受験の対策に小学校生活の半分にあたる3年を費やすのは「長すぎる」のだろう。

しかし、近年の中学入試は非常にレベルが高く、知識を詰め込むだけでは太刀打ちできない。定型題だけが出ていた親世代の中学受験なら、6年生の最後の1年だけ塾に通うというやり方で合格できてしまう子もいたが、今の時代の中学受験は単に知識を答える問題はほとんど出されず、それらの知識を組み合わせて、自分なりに考えたり、工夫したりする力が求められている。こうした応用力を測る問題はある程度の練習期間が必要になる。それを段階的に身に付けていくのに、3年かけてじっくり勉強していこうというのが今の中学受験だ。

なので“ゆる受験”で難関校に合格できたという子は皆無ではないが、非常にレアケースであることを親は知っておかなければならない。むしろ、“ゆる受験”という言葉が幅を利かせていることによって、中学受験をするか・しないかの決断を後回しにする言い訳に使っている家庭が増えていることを、私は危惧している。