「カリフォルニアでレストランを開くことはない」

南カリフォルニアのレストラン企業「アメリカン・グレービー」の創業者であるアンドリュー・グルーエル氏は、法案に反対する人物のひとりだ。

彼が新規オープンしたレストラン「カリコ・フィッシュ・ハウス」では人件費が総コストの35~40%を占める。グルーエル氏が以前経営していたファストフードに近いカジュアルなレストランよりも、10ポイント高い。

グルーエル氏は、「採算を確保する唯一の方法は、人並み以上に売上を上げることです」と厳しい現状を語る。また、法案を受けて設立されるファストフード賃金審議会は、前述のようにファストフード業界の最低賃金を見直す。グルーエル氏は、将来的に審議会が、チェーン店以外の個々のレストランにも影響力を及ぼすのではないかと恐れている。

「私はもう、カリフォルニアでレストランを開くことはないでしょう」とグルーエル氏はこぼし、州法への不満をあらわにした。

賃上げは客の負担増につながる

東海岸の首都・ワシントンではすでに、高騰する賃金を客への会計に転嫁する事例が出てきている。2店舗を構えるシェフ・ジェフズのオーナー、ジェフ・トレイシー氏は、首都圏のCBS系列局「WUSA9」に対し、「首都のすべてのレストランが20%のサービス・チャージを取ることになると思います」と語っている。

首都圏のニュースサイト・DCイストによると、年初に5.35ドル(約800円、チップ別途)だった最低時給は、今年1月から段階的に引き上げられている。チップを受け取るチップ・ワーカーは、通常の最低賃金の適用外となる。

すでに可決した議案82号により、最低時給は7月以降、8ドル(約1200円)に改められた。年初比1.5倍の大幅な改善だ。2027年までに、最低時給は段階的に18ドル(約2680円)にまで引き上げられる。このほかに、客から受け取るチップは全額を受け取ることができる。

「外食産業全体が衰退しかねない」との懸念も

レストランオーナーのトレイシー氏は人件費増を補うため、やむなく5%のサーチャージを顧客に請求している。「時給5ドルから15ドル、そして18ドルになれば、このレストランだけで(年間)40万ドル(約6000万円)のコスト増になります。1つの店舗だけで。それだけのお金が、収益から消えるのです」

店側は苦しい判断を迫られている。同局記者が訪れた別のレストランでは、人件費を補う目的で、会計に20%のサーチャージが加えられていたという。レストラン経営者たちも、客側がサーチャージを嫌うことは認識している模様だ。高額化により、外食産業全体が衰退しかねないと懸念しているという。

「OPEN」のサインが掛けられたレストランの入り口
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