瞑想の効果は脳神経科学的にも確認されている

チベット仏教のダライ・ラマ14世が、自己否定感に悩むアメリカ人から、どうしたら良いかアドバイスを求められた時、通訳を通しても「自己否定」という言葉がどうしても理解できなかったというエピソードを伺ったことがあります。幼い頃から長時間の瞑想修行を積んだダライ・ラマにとって、自己と世界は限りなく一体化しており、その一体化して存在している世界を否定するという発想が、言語的に理解できないということだったようです。

瞑想によるこの状態においては、自己の捉え方に関与する側頭頭頂接合部と呼ばれる部位に「脱中心化」という変化が起きることが脳神経科学的にも確認されています。「脱中心化」とは脳領域のすべてのネットワークが統合され「自」と「他」の境界がなくなっていくことを指します。臨床心理療法的にも、これによってストレスや不安疾患が改善されると言われています。

ビジネスパーソンとしては、これによって自我(エゴ)の意識が徐々に弱まり、他、つまり仲間や組織や社会全体を常に俯瞰ふかんして考える方向に意識が向かっていくようになり、そして自然とリーダーシップが生まれるようにもなります。

名経営者が「禅」を取り入れる理由

これまでも、松下幸之助氏、稲盛和夫氏等多くの日本の名経営者が禅を取り入れてきました。

これは経営者にとって、多くの現実と、様々な欲望が押し寄せる中で、まずは自分が立っている位置と自分自身の心の中を正しく観察することが非常に大切だからだと思います。経営者だけでなく私達も、それによって、

・意思決定にぶれない「軸」が生まれる
・集中力が高まることで業務の生産性が向上する
・現場の「気づき」力が高まり、顧客対応力や危機管理能力が高まる

などの様々な現実的な効果を感じることができます。

座禅を行う僧侶
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