優れたリーダーは「自己との対話」を大切にしてきた

シリコンバレーでも、坐禅はマインドフルネス瞑想法として広く取り入れられてきました。

代表例はスティーブ・ジョブズです。日本人の禅僧・乙川弘文を師と仰ぎ、毎日のように坐禅を行っていたと言われています。iPhoneやMacBookといった画期的な製品を開発する際、市場や顧客の声の分析でなく、自分の中の美意識に深く降りて考え抜くために瞑想を役立てたと言われています。セールスフォース・ドットコムの創業者マーク・ベニオフ、ペイパル創業者のピーター・ティール、リンクトイン会長のジェフ・ウェイナーも坐禅の実践者として知られています。

安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)
安川新一郎『ブレイン・ワークアウト』(KADOKAWA)

また、『サピエンス全史』の著者として有名な歴史学者ユヴァル・ノア・ハラリは、2000年にヴィパッサナー瞑想を体験して以来、毎日2時間瞑想し、毎年1カ月か2カ月は瞑想の修行に行くと語っています。そしてその目的は、「現実からの逃避ではなく、現実と接触するためだ」と説明しています。

徹底的に、自分と世界の境界をなくし、世界の現実と向き合う行為、それが坐禅による瞑想です。

坐禅という身体的な体験を伴う形でなくても、古来優れたリーダーは1人で静かに考える「自己との対話」としての瞑想の時間を大切にしてきました。最後の五賢帝・第16代ローマ皇帝マルクス・アウレリウス・アントニヌスは、折々の思索や自戒の言葉を書き留めた覚書『自省録』を書き記しましたが、英語のタイトルはMeditations(瞑想)です。宮廷の自室や、前線の野営テントで、皇帝としての職務の合間にも瞑想の時間を確保し、自己との対話を徹底して繰り返しました。

ソフトバンクG孫正義社長の習慣

アメリカの実業家でテスラの共同設立者兼CEOとして有名なイーロン・マスクは、考え始めると急に瞑想状態に入り、自分の世界に引きこもってしまう奇癖があることで有名です。1つ判断を求める質問をすると、長い時には10分近くその場で沈黙し考え込むこともあると言われています。AppleのCEOティム・クックも、1つの質問に対して長く沈黙して答えを熟考することで知られています。

孫社長も、瞑想の時間を大切にしていました。社長室には、箱崎の本社ビル時代には畳と掛け軸の和室の間があり、汐留の本社ビル時代も社長室の隣には茶室と川の流れる日本庭園がありました。そこで会議と会議の間に、抹茶を飲んで坐禅をしたり散歩したりしながら、意識を集中させて考えをまとめていました。

ソフトバンクの本社があった東京汐留ビルディング(写真=っ/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons)
ソフトバンクの本社があった東京汐留ビルディング(写真=っ/CC-BY-SA-3.0-migrated/Wikimedia Commons

また大切な朝一の打ち合わせの時には、自宅でサウナに入って思考と集中力を最大限高めてから会議に臨むことを当時は習慣にしていました(朝一の会議で逆光の朝日に孫社長の頭から文字通り湯気が立ち上る瞬間を何度も目撃したことがあります)。また、徹底的に考える時に社長室で木刀やバットを黙々と振っていたのは、思考の集中のためだったのかもしれません。

坐禅のスタイルではなくても、脳にとって静かな瞑想の時間を確保することは大切だと理解できます。

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