「全社員が反対」だからうまくいく

――まさに「利益至上主義」といわれるビッグモーターの営業方針とは、真逆を行くような考え方ですね。しかし、「会社を儲からないようにする」方針で経営は成り立つものなのでしょうか。

【磯﨑(孝)】一般的には業績悪化を招くと思いますよね。社内でも会社が立ち行かなくなるのではと心配した社員たちから、「そんな方針はバカげています」「間違いなく倒産します」と大反対の声が湧き起こりました。

特に「工賃半額」はリスクが高すぎるということで拒否反応が強く、賛成する者は誰一人いませんでした。

カーリフト
写真=iStock.com/Ziga Plahutar
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――この経営方針を打ち出した理由とは?

【磯﨑(孝)】当社は現在、スズキの正規ディーラーとして軽自動車を中心に新車、中古車を幅広く販売していますが、84年当時はスバルのサブディーラーになって3年目で、新車よりも圧倒的に中古車の扱いが多く、経営的にもまだまだ発展途上という段階でした。

生き残りを図り、さらなる飛躍を遂げるには、思い切った手を打つ必要があると感じていました。そこで思いついたのが「会社を儲からないようにする」という経営方針でした。

この方針の根底にあるのは「お客さまをどうしたら喜ばせることができるか」ということです。当社が創業の頃から掲げている理念「顧客の創造」を実践したものであるともいえ、お客さまに多くを還元してこそ支持を得られるはずだという思いがありました。

――社員全員が反対、という状況で方針が揺らぐことはなかったのですか。

【磯﨑(孝)】むしろ、これだけ反対されるのだから逆にうまくいくだろう、と確信できたのです。全員が反対ということは、同業他社も同じく反対の立場を取るはずだ――。つまり、この経営方針に他社は追随してこないだろうということです。他社にできないことができれば、そこは当社の独擅場となります。

5年で売上が倍になった

【磯﨑(孝)】それに、私としては思いつきだけでこの方針を決めたわけではありません。大損害になると反対が強かった工賃半額については、業者間の下請けでは一般客向けの工賃の半額程度で請け負うことが多かったので、危惧するほどのダメージにはならないと踏んでいました。要は販売を含めトータルで利益を確保できれば問題ないという判断でした。

「儲けは後からついてくる」――そう確信してこの方針を5カ年計画で実行に移すこととしました。

――その結果はどうだったのでしょうか。

【磯﨑(孝)】社員たちには「売りやすい軽自動車に的を絞って数字を上げていこう。最初は収支トントンでもいい」と告げ、営業活動に注力していきました。

思惑通り売上は順調に伸びていきましたが、利幅が薄くなったことで、苦しい状況がしばらくの間、続きました。5年間のうち2期は赤字決算となりましたが、赤字幅はそれほどでもなく、5年目の1989年には2億5000万円だった年間売上額を倍の5億円まで伸ばすことができたのです。