被害児童が通学していた小学校はスクールバスを運行しておらず、小学生の児童は徒歩で通学している。筆者は以前八街市の朝日区という地域で暮らしていたが、隣家の小学生の子供は、おそらく子供の足で片道40分ほどは掛かるであろう距離を徒歩で通学していた。
八街は特に顕著なのだが、千葉県内で無秩序な宅地開発が急速に進められた地域は、徒歩移動を想定した道路整備が行われていない。車道と歩道の境もない狭い道路を、小学生が縦一列で歩いて通学する光景はごく日常的なものだ。
八街の死傷事故の発生現場は幹線道路とも呼べない生活道路である。事故を起こしたトラックの会社がその近隣にあったためであるが、道路事情の悪い地域は、幹線道路の渋滞を嫌った車両が生活道路に流れ込み、道路幅に合わない速度で走り抜ける光景を見ることも珍しくない。歩行者の存在そのものを想定していないのではと疑わざるをえない運転を見かけることもある。
登下校だけでなく、日常の生活すべてにおいて、子供の移動がリスクを抱えるものになる以上、子供がなるべく無用な移動をしなくても済む地域に人気が集中するのも無理はない。宅地の供給が小規模開発のみで行われているようなエリアは、総じて公園などの施設も整っていない。
需要があるのは学校周辺だけ
その条件に加え、さらに現代の住宅地として求められる一般的なスペック(複数台駐車可能な広い敷地、上水道や浄化槽の排水口を接続できる側溝の有無など)も併せて満たす住宅地となると、実は一見土地が余っているように見える地方都市においても、実は選択肢がきわめて限られている。
むしろ不動産市場の小さい地方都市の場合、現代の需要に対応した宅地の供給は多くない。造成すればどんな土地でも売れるという時代ではないので、開発業者も需要の見極めは慎重になる。すると、駅や商業施設からの距離など、従来の利便性による不動産価格の査定基準とは別に、学校が近い立地だけ局地的に地価が高くなるいびつな現象が起こる。