日本橋の中央で熊が大暴れ

こうした見世物以外にも、東京都心部で、熊を個人で飼育するケースがあったらしい。また、こうした飼い熊が脱走し、しばしば大騒ぎになっていた。

次は東京日本橋で熊が暴れ出したという記事である。

「東京日本橋の中央に大熊踊い出づ」

一昨日午後三時頃のこととか、日本橋魚河岸のある鳥問屋にて、かねて買い置きし北海道産の大熊が、いかにしてか鉄鎖を断って一目散に日本橋の中央まで駆け出したれば、輻輳ふくそうの場所柄とて、それ、熊が逃げ出したと右往左往に逃げ馳せる騒ぎに、一時は鉄道馬車はもちろん人力車までが躊躇して一歩も進まず、混雑する折から、魚河岸より数十名の若者が駆けつけ、鳥を伏せる大籠にて熊を伏せ、三人ほどその籠の上に乗りしに、熊はさらに屈する様子もなく、ノソノソと三人を引きずる勢いに、今度は大きな箱を持ち来たり、これにてようやく生け捕りたりという(「読売新聞」明治23年11月29日)

日本橋魚河岸の鳥問屋が飼っていた大熊が、鉄鎖を切って逃げ、日本橋の中央まで駆けだした。人々が逃げようとし、渋滞が生じて、馬車や人力車も進めなくなった。魚河岸から数十名の若者が駆けつけ、鳥用の大かごで熊を捕まえ、3人ほどでかごの上に乗り押さえつけたが、熊は屈せず引きずろうとするので、今度は大きな箱を持ってきて閉じ込めたという。

日本橋
写真=iStock.com/TkKurikawa
日本橋の中央で熊が大暴れ(※写真はイメージです)

記事からすると、脱走したヒグマは成獣で、かなり大きかったことがわかるが、意外にもおとなしく捕縛されている。それにしても日本橋に熊がうろつくのは前代未聞だ。

小笠原子爵の家から脱走した熊

次の事件はでは警察が出動し、熊もかなり暴れたようである。

「熊逸して人を騒がす」

小石川区江戸川町十一番地士族小笠原長政方にては、昨年の九月中、札幌地方の知人某より一頭の熊を寄贈されければ、庭園内へ鎖にて繋ぎ置き、さながら飼い犬のごとくに愛撫し居りしが、昨日の午後四時頃、熊はいかにして鎖を断りけん、突然邸外へはしり出でしより、同家の人々の驚きは更なり近傍の騒擾そうじょうひとかたならず、かくと中の橋の派出所へ急報せし者のありしかば、直ちに数名の警官が出張し、人民に怪我あらせじと四方より獲物をふるって狂い哮る熊を追いまくりしに、熊もようやく勇気を失い隣邸の庭の槙の樹へ逃げ登れりたれば、辛くも取って押さえしという、負傷者のなかりしは何よりの僥倖(「朝日新聞」明治30年5月19日)

小石川区江戸川町の士族、小笠原長政の家に、札幌の知人から1頭の熊が寄贈された。庭園内に鎖でつないで、飼い犬のようにかわいがっていたが、どうやって鎖を切ったのか、熊が突然屋敷の外へ逃げたので、同家の人々は驚き、近隣でも大騒ぎになった。

ただちに数名の警官がやってきて熊を追い詰め、熊が隣の屋敷の庭木に逃げ登ったところを、なんとか取り押さえたという。

小石川区は現在の文京区で、「士族小笠原長政」というのは、おそらく旧華族の小笠原長丕ながまさ子爵のことだろう。