秦の解任は突然ではあったが、衝撃的な出来事というほどではない。中国の外相は外交の最上位のポストではない。
最も上の役職は、王毅が務める中央外事工作委員会弁公室主任だ。中国共産党が率いる政治体制では、党の役職が政府の役職より重要になる。
共産党は揺るがないが
一部のアナリストは、秦が習近平(シー・チンピン)国家主席の特別なお気に入りで、秦の妻が習の夫人にうまく取り入ったことも彼の昇進を後押ししたと言う。
だが、秦の出世が特に早かったわけではない。彼は重要な役職をしっかりこなし、堅実に階段を上ってきた。その後ろには常に、彼のポストを奪おうとする者たちがいた。
中国共産党の最上層部には、奇妙な親密さがある。高官たちは今でも互いに近くに住むことが多く、配偶者が政治的な役割を果たすことも少なくない。
北京で党の重要会議が開かれる際は、中南海のかつての宮殿などに高官たちが1週間にわたって一緒に寝泊まりすることもある。
いま秦は、その親密さの矛盾を実感しているかもしれない。これまで親しい付き合いをしてきた人々が、彼が失脚したとなると、巻き込まれるのを恐れて真っ先に非難しているのが現実だろう。
秦のキャリア(そして恐らくは彼の自由)の終わりが、中国共産党を揺るがすことはない。
だが今回の一件は、共産党内部の政治闘争がどれだけ厳しいか、そして外国の政府当局者やビジネスマンが中国の特定の当局者に時間と労力をかけて関わることになぜリスクがあるのかを、改めて思い起こさせる。
当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら