遺伝と非行や犯罪はどのように関係しているのか。慶應義塾大学文学部の安藤寿康教授は「未成年飲酒や喫煙などの非行は友人や周辺環境の影響もあってか、環境要因が大きいとされている。一方で、強盗や殺人などの犯罪行為については環境よりも遺伝の影響を受けやすいことが指摘されている」という――。(第2回)
※本稿は、安藤寿康『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)の一部を再編集したものです。
子供の問題行動としつけはどう関係しているのか
子どもの学業成績については、行動遺伝学によって親の働きかけと子ども自身の素質が絡まりあっていることがわかっています。親が子育てでもう一つ直面する問題は、子どもがしでかす問題行動でしょう。
すぐカッとなって人に手を出す、大人の言うことを聞かない、さらにはうそをついたり人のものを盗んだりする。こうなると親としては黙ってはいられず、厳しく叱ることになります。しかし子どもからすれば、お母さんやお父さんがすぐ怒って手を出すから、ついイライラして自分も友達に手を出したり反抗したくなってしまうと思っているかもしれません。
実際、親の養育態度が厳しければ厳しいほど、子どもは悪い行いをする傾向があります。あるいは子どもが悪い行いをする傾向が強いほど、親の養育態度は厳しい傾向にあります。果たして因果関係はどちらから先に始まったのでしょう。
ふつうこのような「卵が先かニワトリが先か問題」では、親か子かのどちらかに一方的に原因があるのではなく、双方の間の「相互作用」なのだと説かれます。子どものふるまいと大人のしつけの厳しさが相互に絡まりあっているのであって、どちらにも一方的に責任を負わせることなく、両方が努力しあおうというのが「正しい」態度とされます。
それはそれで、子育ての場では大事な姿勢であることには違いがないのですが、行動遺伝学的な分析をすると、そこには双方のもう少し繊細なメカニズムを垣間見ることができます。