イラク戦争や1991年の湾岸戦争のようなケースでは、「アメリカと西側の連合軍は広範囲に圧倒的な航空優勢を迅速に獲得することができた」と、HCSSのもう一人のアナリスト、ポール・ファン・ホーフトは本誌に語った。

制空権を確保していないウクライナ軍はソ連時代のやり方から脱却するため、すばやく攻撃を重ねるNATO式の戦闘訓練を受けてきた。イギリスの防衛・安全保障分野のシンクタンク英国王立防衛安全保障研究所のニック・レイノルズ研究員(陸戦担当)は本誌に、「ウクライナが長年にわたって使ってきたソ連式の戦闘スタイルは、西側が現在ウクライナ軍に教えている戦い方とは根本的に異なる部分がある」と語った。

それだけでなく、「経験豊富な人材が圧倒的に不足している」うえ、経験を積んだ人材は、欧米軍が行っているような広範な戦術訓練を受けていないことが多い、とレイノルズは言う。

「ほぼ間違いなく、問題は、ウクライナ軍のそれまでの戦い方を最大に活かしつつ、よりよく戦えるように助けるのではなく、数カ月の訓練を受ければ、アメリカ軍と同じ戦法で戦うことができるようになり、準備万端で迎え撃つロシアへの攻撃につながるという思い込みにあった」と、カーネギー国際平和財団上級研究員マイケル・コフマンはタイムズに語った。

戦場の経験の違い

「ウクライナ人が西側の訓練に見切りをつけたのは当然だ。実戦で培われた経験と適応力は、平時に組み立てられた西側の空論より優れている」と、エリソンも認める。「どちらかといえば、ウクライナ人が私たちから学ぶよりも、私たちがウクライナ人から学ぶことの方が多い」

アナリストたちは以前から、ウクライナ軍に対する訓練が戦場での成功につながるかどうかを疑問視していた。数週間の反攻でわずかな成果しか得られなかったため、ウクライナは前進のペースが遅いという批判に直面している。ウクライナ東部と南部全域に張り巡らされたロシアの防衛線に対してウクライナ軍がどのように戦っていくのかを懸念する声もあがっている。

米国防総省のパット・ライダー報道官は8月3日、メディアに対し、「ロシアには占領地域一帯の防衛を強化する時間があった。ウクライナはロシアに戦いを挑んでいるが、厳しい戦いになるだろう」と語った。

「われわれは2014年以来、ウクライナ人を訓練してきた」とライダーは述べ、「ウクライナ軍は米軍の重要な戦闘能力を身に着けることができるし、みずから選んだ時と場所でその能力を発揮することになると確信している」と付け加えた。

当記事は「ニューズウィーク日本版」(CCCメディアハウス)からの転載記事です。元記事はこちら
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