「いったいどこでそのソウルを身につけたの?」

古くからの友人でもあるカーク・ウェイラムが開いたゴスペル・コンサートにゲスト出演したときのこと。演奏が終わるや、嵐のような拍手とスタンディングオベーションが巻き起こり、「ケイコの音楽がソウルに響いた」との賛辞が贈られたのだ。

「『あなたは日本人でしょ。なのに、いったいどこでそのソウルを身につけたの!』って(笑)。そんなふうに言ってもらえるのはとても光栄ですね」

祈りを込めてピアノに向き合う姿は、ときに神々しくもある。そこに東洋の神秘や神がかり的なものを感じる人もいるが、ご本人ははっきりと否定する。「スピリチュアルなパワーのようなものは、まったく持っていないんですよ」

では、いったい何が特別なのか。

ヒントは、あるファンの、この言葉にあるのではないか。

「ケイコの音楽はとてもビューティフル! だけど、何より彼女自身が人間としてビューティフルなんだ」

まっすぐで誠実な人柄、あふれる正義感や人類愛。それが音楽ににじみ出て、傷ついた人々の心をやさしく包むのだろう。

アメリカでの音楽活動はまったく考えていなかった

海外での成功も、みずから望んでつかんだものではない。むしろ、何かに導かれるまま進んできた結果のように思える。

「不思議ですよね。アメリカで音楽活動をしたいミュージシャンはたくさんいるのに、私はそんなこと、まったく考えていなかった。なのに、やめたくてもやめられない状況になってしまって……。最近は海外で活躍する日本人も増えてきましたが、私のケースはちょっと特殊かもしれません。ファンのみなさんの心の拠り所になっていることもそうだし、私の曲がご縁で、人間同士のつながりが生まれることもそう。人種も宗教も関係なく、コンサートに来てくださったお客さん同士が仲良くなったりするんです。こういうことはなかなかないと思います」

ロシアとウクライナ、双方に縁が深いだけに、ロシアのウクライナ侵攻にも心を痛めている。

キーウでコンサートを開いたジャズピアニストの松居慶子(=2007年3月15日、ウクライナ・キーウ)
写真=Ukrinform/時事通信フォト
キーウでコンサートを開いたジャズピアニストの松居慶子(=2007年3月15日、ウクライナ・キーウ)

「両方の国に大勢のファンがいるし、友達もたくさんいます。私にとっては信じられない出来事です。ピアノ・ソローツアーで今年も東ヨーロッパを回りましたが、やはりウクライナにもロシアにも行けなかった。ただ祈ることしかできないのがつらいですね……」

以前、一緒にコンサートをしたウクライナのオーケストラの楽団員は、「銃を買うためのお金を集めたいので、これをSNSで拡散してほしい」と、武装した自分の写真を送ってきたという。それはさすがに断ったものの、音楽家が楽器ではなく、武器を手に戦わねばならない現状に、無力感が募るばかり。自分も何か行動すべきではないかと考え始めている。

「ウクライナの問題だけではありません。ペルーやパラグアイではスラム街の人たちの悲惨な暮らしぶりを見てきたし、チェルノブイリの近くに行ったこともある。自分の目で現実を見ると、ほんとうに考えさせられます。ピアノがあろうがなかろうが、世界平和のために貢献したい――そんな気持ちがどんどん強くなっているんです」