2022年から中学・高校で「金融教育」が始まった。東京外国語大学の中山智香子教授は「おカネを上手に貯めて、賢く増やすことを重視し、若いうちから投資をしておカネを増やすことが推奨されている。だが、それではおカネを学んだことにならない」という――。

※本稿は、中山智香子『大人のためのお金学』(NHK出版)の一部を再編集したものです。

硬貨を積み上げる子ども
写真=iStock.com/mapo
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おカネが増えれば幸せになれるのか

2022年から中学校と高校で金融教育が始まりました。その内容は、「上手に貯めて、賢く増やす」というものです。

要するに、「将来苦労しないように、若いうちから投資をして、おカネを増やしておこう」と推奨しているのです。ここで言われている「投資」はむしろ、「投機」に近いように思われます。だとすれば、金融教育というものは、子どもたちを「投機家」に育てようとしていることになります。

私たちにとっておカネとは、単に増やせばいいだけのものなのでしょうか。私は、それだけでは足りないと思います。そのことは、おカネの本質を知らないと理解できません。

人と人とをつなぐバトン

おカネは使ったら「ハイ、終わり」ではなく、そこから始まる関係があります。おカネは、いわば人と人との関係をつなぐバトンのようなものです。今おカネを持っている人は、バトンが回ってきていて、次の人に渡す前の状態だと思えばいいでしょう。

すぐに渡さなくてもいい。誰に渡そうかと考えて、決まってから渡せばいいのです。何なら、おカネを貯めて大きくしてから渡してもいい。おカネを使う人は、バトンを渡すことでつながりを確認できます。同じところで繰り返しおカネを使えば、もっとつながりが強くなります。

死ぬまで貯め込んで子孫にバトンを渡してもいいのですが、やはり、おカネは使ってこそ活かされます。かつてケインズは、「人生は短い」「長期で考えれば人はみな死んでいる」と言いましたが、まさに生きているからこそ、おカネが活きるのです。

死んでしまって誰にもバトンを渡せなければ、死んだおカネになってしまいます。だからこそ、そのバトンをどこに渡すかが大切です。小さなことで言えば、どこのお店で何を買うか、どんなサービスにおカネを投じるか。自分はどのお店を、どんな事業を応援したいのか、それは、あたかも選挙で一票を投じるようなものです。おカネを使うことが、意思表示になるのです。

おカネを払うことの意味

わざわざ隣町にまで足を運んで、小さな本屋さんで本を買う。ネット通販で買えば早いし楽だけれど、そのお店や店主が好きだから「応援します!」と、意思表示をすることができます。実際、そこでときどき買い物をすることで、好きなお店が潰れなくて済むかもしれません。

コロナ禍では、近所の飲食店が潰れないように、テイクアウトをしたり、お弁当を買ったりする現象がありましたね。なるべく地元のお店に行き、地域通貨があればそれを使って、地元を盛り上げようとしました。これはまさに、おカネを使った意思表示です。そういう行動に一歩踏み出すとき、人は穏やかで優しい気持ちに満たされるのではないでしょうか。