警察官に「手数料」を払う…途上国ならではの課題も多い
もちろん、可能性だけではなく課題もあります。ケニアのGDPのうち最大の産業は22.4%を占める農林水産業です。農林水産業のような第一次産業、ITのような第三次産業が発展している一方、製造業などの第二次産業だけは従事者が増えるどころか減っていっているのです。
ケニアの製造分野は原材料や部品を主に中国からの輸入に頼っているのですが、2020年からのコロナ禍で中国からの輸入が止まってしまい、大打撃を受けました。どのようにしてケニアの製造業を強くしていくかは、これからの大きな課題です。
また、先ほど「ケニアでは比較的、自由と民主主義が機能している」と述べましたが、もちろん日本ほど十分ではありません。小さなところでは、たとえばクリスマス前など出費がかさみがちな時期、警察に難癖をつけられて車を止められることがよくあります。
市民も警察官のお給料がそれほど高くないのを知っているので、少額の非公式「手数料」をごく普通に支払っています。
コネクションは日本企業の「目に見えない資産」になる
そして大きなところでは、税の徴収や輸入通関の問題があります。日本企業を含め外資系企業はお金があると見なされ、ケニア国税庁とトラブルになるケースが複数発生しています。このあたりのリスクは、ゼロではありません。
そういった事態の影響を小さくするためにも、私は普段からケニア政府要人や担当官とのパイプづくりを行っています。日本の企業が進出しようというとき、必要なさまざまな許認可を取得するときに通常よりも時間がかかったり、ひどい場合は袖の下を要求されることもあり得ます。
そうならないために、あらかじめ私が個人的に仲良くなっておくと、「ミスター西川からの紹介の件だな」とスピーディーに解決できたりします。なかなかセンシティブな部分ですが、日本企業のケニアでの事業をプロデュースする上で、こうしたコネクションも「目に見えない資産」のひとつとして持っておかなければならない、と考えています。
未知の市場を開拓するには「種蒔き」から
日本企業には、アジアに進出した際のかつての成功体験があります。特に東南アジアではもともと日本のプレゼンスが高く、現地に進出している日本人どうしで商売が成り立つ場合も少なくありません。しかしアフリカはアジアとはまったく異なり、完全なアウェイです。
そんなケニアにいる私がいま力を入れているのは、「日本食をケニアでどうやって広めるか」ということです。
先日、ナイロビの高級ショッピングモール内で、来場者に「日本食を食べたことがありますか?」とアンケート調査を行ったところ、経験者は1割にも及びませんでした。日本食は、欧米や東南アジアではすでに受け入れられていますが、アフリカでは存在を知られているだけにとどまっていて、実際の消費に繋がっていないことが浮き彫りになりました。
私たち日本人も、食べたことのない地域のエスニック料理を初めて食べるには、何らかのきっかけが必要です。そこで私は、ケニアの有名インフルエンサー20人ほどに集まってもらって、和食レストランを貸切にしてマグロの解体ショーと日本酒の試飲会を実施しました。