生き延びるために自傷を繰り返すのだが…

「本人ははっきりと言葉で説明することができないのですが、われわれ精神科医が整理すると、それは、怒りや恐怖、緊張がごちゃまぜになった、名前をつけることのできない強烈な感情です。生きているのか死んでいるのかさえわからない不気味な感じです。その感情が心に渦巻いている状態から回復するために、本人は解離状態になります。自分自身から解離することによって、言葉にならない強烈で不気味な感情をリアルに感じないで済むのです。

でも、つらい感情が去ったあとも解離状態が続いていると気持ちが悪い。それで腕を切るわけです。すると最初は痛みを感じないのが、ザクザク切っているうちにだんだん痛みを感じるようになってきてそこで現実を取り戻すのです」

死ぬことを目的として行為の結果を予測して自分の体を傷つける自殺に対し、非致死的な結果を予測して傷をつけるリストカットは、生き延びるための行為なのだという。それでも、10代での自傷行為経験者の10年内自殺既遂リスクは400~700倍にもなる。長期的に見ると自殺の危険因子でもある。

また、生き延びるために自傷を繰り返す少女たちだが、初めての自傷の際には死のうと思っていたというケースが実は多い。

オーバードーズや摂食障害も「死」と隣り合わせ

「死にたいと思いつめて自傷したけれど、失敗した。ところが、死にたいくらいつらい状況を一時的に生き延びるのに自傷は役立つと発見してしまうわけです。リストカットによる苦痛の緩和が報酬となって、自傷が常習化していく。依存性があるため効き目が弱くなっていって、当時と同じ効果を維持するために頻度や程度がエスカレートする、また、手段や方法が過激になっていきます」

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長で精神科医の松本俊彦氏
撮影=プレジデントオンライン編集部

市販薬や睡眠薬を過剰服用するオーバードーズや、過食・拒食も、自分を傷つける行為だ。オーバードーズは、つらい記憶や感情がフラッシュバックした際に、死にたい、消えたい、怖いといった意識をシャットダウンすることができる。

だがだんだん効きが悪くなるため致死量を超えて服用してしまう危険がある。昏睡こんすいするほどに効かず酩酊めいてい状態になった場合、衝動のコントロールが悪くなり、つらいという感情から自殺念慮が生じて飛び降り自殺や首吊り自殺の衝動に突き進んでしまうこともある。