彼女たちの根っこにあるのは「怒り」

リストカットをする女の子たちは、ボディピアスやタトゥーを好む傾向にもある。彼女たちにとってのボディピアスやタトゥーは、ファッションであるのと同時に、本人は軽い解離状態で痛みに鈍くなっているため、例えば、舌にボディピアスを入れているとゴツゴツとした異物感があることによって舌があることを自覚できる。生きている実感を得るのだ。

リストカット、オーバードーズ、過度な飲酒など、複数の自傷をする、複合的な自傷行為へと進んでしまうのは、心の傷が深い、重症であることの表れだという。

彼女たちの感情の根っこにあるのは「怒り」だと松本氏は指摘する。

「彼女たちの多くは、自傷に関連する感情として怒りを抱えています。それも、人生最初に怒りを感じた相手、それはしばしば、自分がいちばん大好きで認めてもらいたい人に対する怒りなんです」

つまり、親に対する怒りをストレートに親にぶつけられないというのだ。

暗い建物の通路を歩く若い女性
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決して好きで痛い思いをしているのではない

過干渉を含む虐待、子どもの目の前で両親が喧嘩する「面前DV」、ネグレクト、あるいは性暴力被害の記憶。父親や兄弟からの性被害を受けた人もいる。そうしたつらい出来事が自分の身の上に起きたということを自覚して生活の中に位置づけると、死にたくなってしまう。だから、自分の勘違いだというふうにして記憶の底に沈める。だが、フラッシュバックしたときにつらい記憶や感情を打ち消すために自傷する――。このサイクルができあがっていく。

一見すると母と娘の関係に問題があるようでも、実は父親がサポーターになっていなかった、夫婦関係が悪かった、など、父と母の関係性の影響も考えていくと、母子関係にとどまらない家族の問題が浮かび上がってくる。

「自傷はひとつの表れであって、その背景に何かがあるという理解がまず必要です。彼女たちは好きで痛い思いをしているわけではありません。身体に傷をつけてまで封じ込めたいほどのつらい出来事の記憶がある。その理解が大切です」