女子中高生の12.1%は「リストカットの経験がある」という調査結果がある。調査した精神科医の松本俊彦氏は「彼女たちの多くは、怒りの感情をストレートにぶつけられず、つらい記憶や感情を打ち消すために自傷してしまう。親など周囲の人は、頭ごなしに否定するのではなく『何があったの?』と声をかけてほしい」という。ノンフィクションライターの三宅玲子さんが聞いた――。

なぜ少女たちは自分の腕を傷つけるのか

新宿・歌舞伎町で警視庁が「トー横キッズ」の一斉補導を実施し、26人が補導されたと報じられたのは、夏休み直前の7月16日だった。歌舞伎町を居場所とする中高生をトー横キッズと呼ぶ。ここ数年は低年齢化が進み、文字通り、小学生のキッズも紛れ込んでいる。

家に安全な居場所がなく、人の繋がりを求めて歌舞伎町に集まってくる女の子たちの多くが、カミソリやカッターナイフで自らの腕を傷つけるリストカットをしている。援助交際やデリヘルなどに入り込む女の子もいて、彼女たちのリストカット率は極めて高い。

彼女たちがリストカットをせずにいられないのはなぜなのか。そのわけを依存症の研究者で精神科医の松本俊彦氏(国立精神・神経医療研究センター)に聞いた。

国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長で精神科医の松本俊彦氏
撮影=プレジデントオンライン編集部
国立精神・神経医療研究センター薬物依存研究部部長で精神科医の松本俊彦氏

女子中高生の12.1%。これは松本氏が行ったリストカットに関する調査結果だ。さらに、一度でもリストカットをしたことのある人のうちの6割が、10回以上繰り返していた。実は女の子たちにとってリストカットは遠いものではないのだ。

心の痛みを克服するために身体の痛みを使う

自分では手に負えない感情に対処するため、つらい感情を一時的に緩和するための行為、それがリストカットだと、松本氏は語り始めた。

「居場所のない子どもたちが煙草の火を腕に押し付け合う根性焼きという現象が見られたのが80年代でした。根性焼きもリストカットも自傷行為です。細かく考えれば、聖書にも自傷と思しき描写がありますし、禅宗では僧侶が過酷な修行をする、あれも自傷的です。歴史を遡っても、人間は耐え難い心の痛みや困難を克服するのに身体の痛みを使うというのがあったと思います」

松本氏は薬物依存症をはじめ依存症を30年にわたり研究している。リストカットは2000年代に入ってその数が目立ってきたという。

女の子がリストカットをする際、心の中ではどのようなことが起きているのか。