金融・財政政策については、当初は安倍さんもほかの政治家と同じように、「金融のことは専門家である日本銀行が一番よく知っており、財政のことは財務省に頼ればよい」と考えていたようである。しかしその後、20年以上も続く不況や、ゼロ金利政策の早すぎた解除といった政策の誤りを観察して、日銀や財務省の言うことに従うばかりでは、国民のためにならないと気づいたらしい。

「異次元の金融緩和政策」は大成功

第2次安倍政権のころは金融政策に関して、世界的経済学者とも議論を重ねて考えを深めていた。結果、金融引き締めに走らない黒田東彦氏を日銀総裁に任命し、「異次元の金融緩和政策」は大成功を収めた。

第2次安倍政権の誕生からコロナ禍が起きる前の2019年半ばまでに、日本は500万人分の新規雇用を達成した。それは、それまでの過剰な金融引き締めによる不必要な円高が是正され、雇用の拡大とともに投資が国内に戻ってきたからである。これはプラザ合意以後の歴代内閣では手の届かなかった成果であった。

しかし、安倍さんも述べるように、日銀の金融引き締め政策を転換したのは成功であったが、財政政策はもう一歩及ばなかった。14、16年には消費増税を2回延期し、その間の麻生太郎財務相(当時)との交渉を回顧録では生々しく語っている。19年には増税を実現してしまい、私との生前の対談では、消費税の引き上げは「ある種、デフレ圧力となってしまった」と語り、デフレから脱出するロケットの推進力が弱まってしまったと反省されていた。

国際比較してみても、実物資産を含め資産をたくさん所有している日本政府にとって、「プライマリーバランスを黒字化せよ」「国債残高をGDP(国内総生産)の何%に収める」という議論はほとんど意味がない。国民にとって将来的に重要なのは、政府が国民にどれだけ借金しているかという国内での分配関係でなく、政府を含めた国民がどれだけの純資産を持つかなのである。当時は私も、「政府も貸借をバランスさせよ」という議論にまどわされていて、十分な論理で安倍さんをサポートできなかったことを残念に思う。

暗殺事件に関わる責任は、民主社会を守るため厳格に追及されるべきである。そして、信仰の自由の下で、布教の仕方の是非も真剣に議論すべきであろう。一方で、安倍さんが実施した「アベノミクス」と、提唱した「自由で開かれたインド太平洋戦略」は国民に残された贈り物である。その価値はかぎりなく大きい。

(構成=川口昌人 写真=時事)
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