コロナ禍の言い訳
2019年5月。90歳になった母親は「膝が痛い」と言い出し、そのうち痛がって歩くのもままならなくなる。そのため通院時は、さらに気を使わなくてはならなくなった。
「歩けない、動けない、動くと痛がる老人を動かすのは大変なことだなと思いました。その日は半日でしたが、疲れ切った私の身体にトドメを刺したようです。夕方、近場の温泉に行きましたが、浸かりながら寝てしまい、一瞬、自分がどこにいるのかわからなくなってしまいました。寝たきりや身体が不自由な身内の介護をしている方、本当にご苦労さまだと思います」
2020年に入ると、コロナのため、面会ができなくなった。
「それまで何とか週1で来ていましたが、コロナで面会中止になってから、母のことを考えないように考えないようにしてきました。途中、少し面会できるようになりましたが、今度は私の咳が止まらず、なかなか母に会えませんでした。でも、内心会えなくてほっとしている自分がいました。われながら、ひどい息子だと思いました」
2020年夏ごろ。久しぶりに面会できたが、91歳の母親はもう山田さんを息子だと認識しておらず、顔を見るなり「にいちゃん!」と言った。おそらく山田さんの兄ではなく、自分の兄だと思ったのだろう。ソワソワと落ち着かない様子で、「みんなのところへ行かなきゃ!」と10分くらいで面会を切り上げてしまった。
体調不良の原因
山田さんの体調不良は、ずいぶん長い間続いていた。体調不良が原因で、2020年の夏ごろには、衣料品店に続き、経営していた飲食店も辞めてしまった。
山田さん自身は、「2019年ごろから始まった」と言い、介護疲れが原因だと思い込んでいるようだが、筆者は取材をしていて、母親から目が離せなくなってきた2016年ごろから、すでに山田さんの体調不良は始まっていたように感じる。
「不眠は2016年以降から。2019年ごろからは少しずつ体重が減り始め、2020年には一気に体調が悪くなりました。今考えると、グループホームに入所させてからの方が、母に対する懺悔の気持ちからか、精神的にきつくなりました。体力的には楽になったはずなのですが、グループホーム入所後の気持ちの落ち込みや憂鬱な状況が、私に病魔を呼び込んだのではないかと思います」