中小企業の平均は29.9万円、前年比0.03カ月増

賃上げでは大企業の大幅アップが日本の労働者の7割を占める中小企業に波及することが期待された。しかし蓋を開けてみると、中小の賃上げ企業は増えたものの、金額を含めて2極化していることが明らかになった。

日本商工会議所が5月31日に発表した調査(約2000社)によると、2023年度に所定内賃金の引き上げを実施した企業(予定を含む)は62.3%。2022年6月調査の50.9%と比べ11.4ポイント増加した。

一方、「賃金の引き上げは行わない」企業が25.9%、「現時点では未定」の企業が11.8%。計37.7%の企業が賃上げできない状況にあった。

所定内賃金を引き上げた企業の内訳は、純粋にベースアップした企業が53.7%。手当の新設・増設が14.0%。手当の中にはインフレ手当や物価高騰対策手当も含まれている。

また、この調査では所定内賃金に一時金(ボーナス)を加えた給与総額の引き上げ率も聞いている。それによると3%以上の引き上げ企業が50.5%。3%未満が41.2%だった。2022年通期の物価上昇率が3.2%(総合)だったことを考えると、賃上げした中小企業でも半数弱の企業は物価上昇率を下回っていることになる。

ベースアップした中小企業でも大きなバラツキがある。

中小の製造業が多く加盟する産業別労働組合のJAM(ものづくり産業労働組合、組合員39万人)が集計した6月20日時点のベースアップの平均額は、従業員3000人以上の企業労組が7933円、これに対して300人未満の企業は5005円だった。大企業と約3000円の開きがあるが、それでも前年度よりアップしている。

しかし300人未満の企業の賃上げ分布を見ると、全体の半数以上の組合が平均額を下回っている厳しい現実が浮かび上がった。

妥結した607組合のうち、ベア額1万円以上が42組合もある一方、1000円未満が26組合、1000~2000円未満が66組合、2000~3000円未満が66組合、3000~4000円未満が81組合、4000~5000円未満が72組合あったのだ。

しかも賃上げ交渉を断念した労働組合が17組合もある。

1万円以上のベアを出す企業もある一方で、回答額ゼロあるいは数百円程度の企業もあるなど、中小企業の間でも大きな格差がある。

では、ボーナスの妥結月数はどうか。300人未満の半期の妥結月数は2.14カ月。前期比わずか0.03カ月増えただけだ。ちなみに従業員3000人以上の大企業は2.72カ月。前期比0.11カ月分増えている。金額では300人未満が約58万円、3000人以上が約92万円。中小と大企業のボーナス格差も広がっている。

しかも労働組合のある企業に限った話だ。日本の従業員100人未満の企業の労働組合の推定組織率は0.8%(厚生労働省「令和4年労働組合基礎調査」)にすぎない。

労働組合のない99%の中小企業では賃上げどころか、ボーナスを払えないところも少なくないだろう。

JAMの幹部は「労働組合のある中小企業は経営者と粘り強く交渉し、何とか勝ち取ったが、それでも企業間で金額のバラツキがある。労働組合のない中小企業は賃金も上がらなかったという実態が今後浮かび上がってくるのではないか」と語る。

人々が行き交う中にたたずむ高齢のビジネスマン
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