トイレに、階段に、時計が22個も

私はもともと、時間を守ることに関しては強迫観念に近いものを持っていた。待ち合わせも必ず5分前に着き、車で1時間で行けるところへも交通渋滞を考え、1時間半前には出るのが習性だ。自宅にも時計がトイレに、洗面所に、階段に……といたるところに置かれ、家内が数えたら全部で22個もあった。朝、歯磨きをしながら時計を見て、出勤時間に間に合うよう段取りを調整する。腕時計も何個も持っていて、どれも時刻は正確に合わせてある。これは性格なのだろう。今でも入学試験に遅刻する夢を見て、ハッと飛び起きることがあるほどだ。

私の場合、いささかパンクチュアルにすぎるのかもしれない。ただ、ビジネス社会では時間は命であり、時間を守ることはビジネスの正義だ。会議の時間設定も、その時間まで会議ができるという意味ではなく、遅くともそれまでには終わっていなければならないと考えるべきであり、30分の予定を20分で切り上げれば、参加者全員の生産性は1.5倍に上がる。

会議は「何を、誰が、いつまでに」、つまり、行うべきアイテム、実行責任を負う人間、デューデイト(締め切り期限)のアクションプランを決めさえすればいい場だ。これが曖昧だから長引く。

このアクションプランで重要なのがデューデイトの決め方だ。本人に決めさせると、サプライヤーサイドの都合でマージン(余白)を取ろうとする。そうではなく、いつまでにマーケットに投入すべきか、ディマンドサイドの視点で上司がイニシアチブを取って決めなければならない。期限を決めたら、進捗具合のモニタリングを適時行うのはいうまでもない。

このとき、当事者たちに問われるのが「時間感性」だ。時間に対してどれだけ高い感度を持てるか。それぞれの事業や仕事には求められる時間軸がある。例えば、今日指示したら、時間軸を的確に読んで翌日には答えが出せる人と、催促されて初めて出てくる人とでどちらを取るかといえば、時間感性の豊かな前者だ。

求められる時間軸は言葉で説明しなくても暗黙のうちに了解できなければならない。この時間感性は教育によって仕込めるものではなく、教育している暇もない。必然、同じ時間感性を共有できる人間だけが集まった組織で戦うことになる。

ただ、時間感性はルーチンモードだけでは疲弊する。だから安息日モードが必要であり、その両方が結ばれることで平日の仕事もクリエーティブ・ルーチンにすることができる。時間感性が大きな競争力になる時代が来ていることを誰もが自覚すべきではないだろうか。

※すべて雑誌掲載当時

(勝見 明=構成 市来朋久=撮影)
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