ChatGPTに日本人がハマるのはなぜ?

――一方向の流れでいうと、今はChatGPTが大ブームです。開発したオープンAIのサム・アルトマンCEOは短期間に2度日本を訪れており、日本を重要な市場と位置付けていることがうかがえます。なぜ日本人はChatGPTが大好きなのでしょうか。

ChatGPTがなんで日本でブームになったのかは興味深い問題です。ちょっとはぐらかす答えかもしれませんが、ぼくはひとつには、日本人は「質問すれば何でも答えてくれる学校の先生みたいなもの」が時に好きだというのがあるのかなと思っています。

ときどき話すことなんですが、日本はとにかく初等教育の「学校」が社会の雛形になってしまっている。地域社会とか宗教とかが弱いから、それしか社会のモデルがない。そしてそのせいでいろいろ歪んでいる。

小学校だと、クラス内で問題が起こると、先生に言いつけたらすべて解決する。先生がだれが正しいか判断してくれるからです。ところが社会に出ると先生がいない。でも日本人は先生がいないと機能不全に陥るんですよ。だから、ネットでもトラブルが起こるとすぐ勤務先に「言いつけ」ちゃう。

哲学者の東浩紀さん
撮影=西田香織

何でも適当にこなす超優秀なサラリーマンみたいなもの

仕事は手取り足取り教えてもらえて当然とか、誰でも平等かつ公平に扱われるべきだという発想も、すべてそういう小学校の教室モデルから来ているように思います。

現実の他人はそんなに親切じゃない。社会は不平等でえこひいきばかりです。確かに小学校では金持ちの子も貧乏人の子も同じ給食を食べるけど、それは小学校だからこそ作られている幻想ですよね。現実はそうなっていないのに、それが教えられないで大人になっている。困ったことだと思います。

――ChatGPTが多くの仕事を奪うと懸念する声も聞かれます。

【東】そうかもしれないけど、ぼくはあまり気にしてません。テック界隈では数年おきに似た議論が起こるので。

ChatGPTについては、「それっぽく答える人間」ぐらいの感覚で付き合えばいいのだと思っていいます。正しいことを教えてくれる全知全能な先生ではない。人間は会話するとき、多くの場合はほとんど考えずに答えてますよね。ChatGPTも同じです。基本的には適当に返答している。

だから無理難題を押しつけても、嘘とわからない程度の答えを返してくる。何でも適当にこなす超優秀なサラリーマンみたいなものです。そうと思って付き合えばそれなりに有能だしコストダウンにも繋がるけど、あまり真面目に考えてはいけない。