擬音語(ザーザー、ごろごろ、どんどん、など)、擬態語(つるつる、さらっと、ぐちゃぐちゃ、など)を指すオノマトペ。慶應義塾大学環境情報学部教授(認知科学)の今井むつみさんと名古屋大学大学院人文学研究科准教授(言語学)の秋田喜美さんが、「なぜヒトだけが言語を持つか」というテーマの中で、言語の本質の鍵を握る一つであるオノマトペに関して研究すると、多くの面白い“法則”が見いだされた――。

※本稿は、今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(中公新書)の一部を再編集したものです。

さまざまなオノマトペ
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単語の形のアイコン性

オノマトペには特徴的な語形が多く見られる。「ドキドキ」「そろりそろり」「グングン」「ブーブー」のような重複形はその代表格である。オノマトペ語形はアイコン的(※)である。「ドキドキ」は鼓動が繰り返し打つから「ドキ」を繰り返す。「そろりそろり」も複数の歩数進むから重複形を用いるのである。なお、日本語オノマトペの代表的な辞典であるDictionary of Iconic Expressions in Japaneseを見てみると、1620語の収録語のうち571語(35%)がこの重複形である。

※ニャー=猫の声、ピカピカ=明るい点滅など、表すもの(音形)と表されるもの(感覚イメージ)に類似性があると感じられること。

反対に、繰り返さないことで繰り返さない出来事を表すのも語形のアイコン性である。「ドキッ」「ドキン」「ドキリ」はいずれも一回の鼓動を表すし、「ブー」というのも一回きりの豚の鳴き声を表す。先ほどの辞書には、このような単一形が547語(34%)見つかる。重複形と同様に、日本語のオノマトペの中心的存在と言えよう。

重複形と単一形のアイコン性はわかりやすい。語形で時間の輪郭を写し取る。わかりやすいだけあって、他の言語のオノマトペにもたくさん例を見つけることができる。コンゴ民主共和国のルバ語では、心配して瞬きする様子を「カバカバ kabakaba」という。二つの「カバ」で複数回の瞬きを表している。「ヨロヨロ」に相当するバスク語の「トリンクリントリンクリン trinkulin-trinkulin」も、「トリンクリン」を繰り返すことで複数回のよろめきを表している。さらに、西オーストラリアのニュルニュル語では、一回の射撃を「バニ bany」、複数回の射撃を「バニバニ bany-bany」という。