発音のアイコン性
まず、「あ」が大きいイメージと結びつき、「い」が小さいイメージと結びつくのはなぜか? 一つの理由は、これらの母音を発音(調音)する際の口腔の大きさである。
「あーいーーあーーいーー」と発音してみてほしい。「あ」よりも「い」を発音するときのほうが口の中の空間が小さいことがわかるだろう。「あ」では下した顎が大きく下がるのに対し、「い」では下顎が上がるとともに舌が前に出る。口内空間の大きさがイメージの大きさに対応するというのは、きわめてアイコン的でありわかりやすい。
実際、この音象徴については、オノマトペ以外でも、また日本語以外の言語でも広く確認されている。たとえば、「大きい」を表すことばには、日本語の「おおきい」のように「お」や「あ」のような口を大きく開く母音が使われやすい。英語の「ラーヂ large」、フランス語の「グラン grand」、ハンガリー語の「ナーヂ nagy」など。
一方、「小さい」を表すことばには、日本語の「ちいさい」のように「い」という母音が含まれることが多い。英語の「ティーニー teeny」、フランス語の「プティ petit」、ハンガリー語の「キツィ kicsi」のように。
大きさの音象徴については、実験による検証も行われている。アメリカの人類学者で言語学者のエドワード・サピアは、今から100年も前に「マル mal」と「ミル mil」のような新奇語をアメリカの英語話者などに提示し、大小二つの机のどちらの名前かと尋ねた。すると、70%以上の被験者が「マル」を大きい机、「ミル」を小さい机に結びつけたという。
発音の仕方がアイコン的であるのは、大きさの音象徴だけではない。たとえば、蝋燭の火を消すときの「フーッ」というオノマトペは、明らかに口から空気をフーッと出す際の口の形を模している。「ニッ」というオノマトペも、ニッと笑うときの口の形を利用している。
さらに、日本語のオノマトペは、「コロコロ」「クルクル」「ポロポロ」「ヒラヒラ」「チュルチュル」というように、二つめの子音がrであるものが非常に多い。これらのオノマトペは、回転、落下、吸引などスムーズな動きを表すことが多い。日本語のrは、叩き音といって上顎に瞬間的に当てた舌先を前方に下ろす動きを伴う。この発音的特徴が動きの意味にアイコン的に結びついているのだろう。