音のアイコン性 清濁の音象徴

オノマトペのアイコン性は、それを構成する音にも認められる。音のアイコン性は「音象徴 sound symbolism」と呼ばれる。過去20年ほど国内外で研究が活発になり、その仕組みがかなり明らかになってきているが、まだわからないところもずいぶん残されている。

日本語のオノマトペはとりわけ整然とした音象徴の体系を持つ。すぐに思い浮かぶのは、いわゆる「清濁」(有声性)の音象徴だろう。「コロコロ」よりも「ゴロゴロ」は大きくて重い物体が転がる様子を写す。「サラサラ」よりも「ザラザラ」は荒くて不快な手触りを表す。

さらに「トントン」よりも「ドンドン」は強い打撃が出す大きな音を写す。gやzやdのような濁音の子音は程度が大きいことを表し、マイナスのニュアンスが伴いやすい。

「コロ」や「ザラ」や「ド」(ないし「ドン」)のようなオノマトペの中核となる要素を語根というが、Dictionary of Iconic Expressions in Japaneseから抽出できる598個の語根のうち、311個(52%)が「コロ/ゴロ」のように語頭の清濁についてペアをなす。清濁は、日本語の音象徴の「軸」と言ってよいほどの重要性を持つのである。

日本語の音象徴における清濁の重要性は、それがオノマトペ以外でも見られることからもわかる。「子どもが遊ぶさま」の「さま」に対して、「ひどいざま」の「ざま」は軽蔑的意味合いを持つ。「疲れ果てる」の「はてる」に対する「ばてる」にもぞんざいなニュアンスが伴う。

以前、あるテレビ番組で、がんを経験した女優の大空眞弓おおぞら まゆみさんが、「『がん』じゃなくて『かん』と呼べばショックが少ないのに」というような話をしていた。これもまさに清濁の音象徴から来る感覚である。

ほかにも、「ブルドーザー」「バズーカ」「ゴジラ」「どんぶり」「仏壇」「ゾウ」「ブリ」はいずれも大きなものを表すが、日本語話者の耳には、いかにも濁音がぴったりと感じられるのではないだろうか。「プルトーサー」「パスーカ」「コシラ」「とんぷり」「ぷつたん」「そう」「ぷり」では、どこか物足りない。ゴキブリも「ゴキブリ」という名前のせいで、余計に嫌な生き物に見えているかもしれない。

マンガで使われるような擬音
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清濁の音象徴は、ポケモン(ポケットモンスター)の名前研究でも報告されている。体長の長いポケモンや体重の重いポケモンに濁音が多いほか、進化が進むにつれて名前に濁を持ちやすくなることがわかっている。たとえば、「ヒトカゲ」というポケモンは進化すると「リザード」に名前を変える。濁音が一つから二つに増えている。濁音と大きさ、重さ、強さの関係は、まさに「ゴロゴロ」で見た音象徴である。