続・音のアイコン性 その他の音象徴

音象徴はあらゆる子音・母音に宿る。たとえば、「のろのろ」「のたのた」「のそのそ」「のんびり」「にょろにょろ」「ぬるぬる」「ぬめぬめ」「ぬっ」「ねばねば」「ねちゃねちゃ」に共通する語頭のnという音はどんな意味を持つだろう?

今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(中公新書)
今井むつみ・秋田喜美『言語の本質』(中公新書)

nから始まるこれらのオノマトペからは、遅い動き、あるいは滑らかさや粘り気のある手触りという意味が取り出せそうである。同じくnから始まる「塗る」「練る」「舐める」のような動詞や、「滑らか」のような形容動詞にも共通する意味の傾向である。

母音「あ」と「い」はどうだろう? 「パン」と「ピン」はいずれも打撃を表すことができる。しかし、「パン」は平手で叩くような大きな打撃であるのに対し、「ピン」は人差し指で弾くような小さな打撃である。「パチャパチャ」と「ピチャピチャ」もよく似た出来事を表すが、動きの大きさや飛び散る水の量は「パチャパチャ」のほうが勝っている。

さらに、「ガクガク」と「ギクギク」も比べてみよう。「ガクガク」は脚や大きな柱が大きく揺れる様子を表すのに対し、「ギクギク」は椅子などが小刻みに揺れる様子を表す。やはり「あ」は大きいイメージと、「い」は小さいイメージと結びつくようである。

このように、オノマトペを構成する子音と母音はそれぞれに何らかの意味と結びついている。では、このような音象徴は、どういった点が「アイコン的」なのであろうか? 子音や母音のどのような特徴が、大きさや滑らかさといった感覚情報と「似ている」と私たちに感じさせるのだろうか?