製造委託するパートナーの技術力を全社員が信じている
同社の商品群はパッケージ、TV広告、店頭コミュニケーションまでわかりやすさを大切にして大ヒットしている。同社はアイデアを市場に出すスピードを重視しているので、最初はOEMで作るスピード開発を実践することが多く、マーケットボリュームが出てから自社製造に切り替える。
特徴は、「アイデアを形にしてくれる技術力を伴ったパートナーが、世の中にいるんだ」ということを社員が信じていることにある。そして、「自社でやるよりも、その方が早い」と実践しているのだ。需要分析を経て、その結果を信じて売るわけだが、結果が思惑通りになるかわからない。リスク分散のOEM体制と協力社管理の複雑性はあるが、そうした体制のバランスのとり方に長けている点が小林製薬の強みである。
新製品を出す上ではシンプルなゲート管理をおこなっており、ある程度、簡易なテストで勝算がありそうならスピード感をもって市場に出してしまう。そこから、多少の売上不振があってもすぐには諦めず、コンセプトをどう伝えるかを考えながら、製品自体ではなくコミュニケーション、販促物、広告を改良するPDCAを回していく。
小林製薬のような企業規模ではにわかには信じがたい動きで、その様はまるでベンチャー企業のようであり、ブランドマネージャーはそのような動きが要求される。商品コンセプト作成にはじまり、わかりやすいTV広告のクリエイティブの撮影、編集に至るまで、すべて責任をもって現場で判断する。こうした環境下で、数年間でコンセプトメイキング、CF制作、コミュニケーションのプロになっていくキャリア・人材育成の仕組みがある。
業界一の高単価でもシェア1位を保つ秘訣
さらには商品コンセプトで勝負していることへの理解から、営業は安易に安売りしない。システム上、1SKU(最小管理単位)あたりの利益率、営業の得意先ごとに利益コントロールできるようになっている。「儲からない得意先の中で、ブランドごとにどう利益貢献しているか?」まで可視化されている。そのため、利益ベースで重点顧客を選んだり、条件変更をお願いできる体制だ。営業は小林製薬のプレゼンスを市場全体で高める意思も持ち合わせている。
ナイシトールは成功後、競合他社から模倣商品が数多く出現した。そこで新たにインサイトを深堀りして「内臓脂肪」という言葉を創造した。コンセプト開発後、内臓脂肪という言葉のマインドシェアを上げようという長期的な視野をもとに、研究開発部門と一緒にエビデンスを取り、厚生労働省を説得して成立させ、大きなヒットに結びつけた。
「内臓脂肪」という表現と「脂肪を燃やす!×余分な脂肪を便と一緒に出す!」というTV広告の直截な表現で、現在でもシェア1位を保持している。価格は業界一の高単価だ。小さく生んでテストマーケティングにつなげ、しっかり育てるサイクルがここにある。